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No.5

書のアヴァンギャルド
柿沼康二の世界

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「餓える(かつえる)」という言葉がある。この国では死語に等しいので、まともに読める人は少ないかもしれない。ましてその言葉の意味がきちんと理解されることは稀だろう。「ハングリー精神」とも違う。日本語で言う「ハングリー」とは、一食抜いたくらいの飢えに過ぎず、すでに甘えを内包している。
 そういう私も、その言葉の意味を理解していると自信をもって言えるわけではない。たぶん「希求する」よりも百倍くらい強く願うことを「餓える」というのではないかと定義するだけで、それ以上は推測の世界だ。
 それでもあえて、この若い書家を〈餓えるアーティスト〉と形容したい。クタクタになるまで走り続け、そのまま何も食べないで苦いブラックコーヒーだけを胃袋に流し込み、夜中にロックをガンガン鳴らしながら朝まで創作を続ける。しかも創作以外の日常の書活動では大半を臨書と呼ばれる基本に費やす。群れることを嫌い、権威に惑わされない。そもそも他者の評価など眼中にない。信頼する尺度は、自らの美意識だけ。
 大変な生き方を選んでしまったなと余計な心配を抱く。野原を断崖絶壁のように歩く、ではすまされないであろう。
 しかし、柿沼康二の創る作品が、観る者の心をわしづかみにして離さないのも事実である。たぎる情熱と怜悧な洞察力。動と静。自分を律する厳しさと他者の懐に潜り込む絶妙な温かさ。
 柿沼康二の世界、幕開けです。

●企画・構成・取材・文・制作/髙久 多美男
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.5 【フーガ 2002年 6月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2002年5月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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