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No.16

パリ・イシ オーナーシェフ
吉田忍の野望
料理は格闘技だ。

Contents

二〇〇一年七月、宇都宮市に一軒のレストランがオープンした。それまでのフレンチレストランでは考えられないほど多い客席数。これだけ大規模な店舗を維持するのは,市内の主要道路のロードサイドという立地を考えたとしても、宇都宮では難しいのではないかと思ったものだ。
 はたしてオープン後には大変な賑わいをみせた。ランチタイムには行列ができ、ディナーでは予約が殺到した。しかし、突然人気がでて売れる商品が必ずしも良い商品とは限らないように、料理が本物でなければやがて客足は遠のいていく。ましてフレンチという業態で成功することは地方では大変困難だといわれているからだ。そうした大方の予想を裏切り、オープンから二年近く経った今でも衰えぬ人気を誇っている。その店の名は「パリ・イシ」。訪れる人は女性だけでなく、舌に自信を持つうるさ型の男性も足繁く通う。
 飲食店というものは、良くも悪くもオーナーの情熱や姿勢がストレートに現れる。オープン当初から「パリ・イシ」のオーナーには少なからず興味を持っていたのだが、業界関係から彼の人柄に関して耳にするのは変人だとか。口が悪くてきかん坊だとか、店からイメージするものとはかけ離れた話ばかりだった。
 結局、彼と直接言葉を交わしたのは昨年十一月。彼の名は「パリ・イシ」オーナーシェフ、吉田忍、三十八歳。
 気を放つ眼光、隆起した筋肉、恐ろしいほどの料理に対する情熱と知識。料理格闘家という言葉がぴったりの男だ。
 妥協などという言葉は知らぬ、己の持つ技術と知識をすべてかけ、渾身の一皿に仕上げる姿は、近寄りがたいほどの気迫とエネルギーに満ちていた。これほどの気骨と職人魂を持っている人物は、宇都宮はおろか日本でも少ないに違いない。常軌を逸したような食材へのこだわりと、料理への厳しさが曲がって伝わり、ネガティブなイメージの吉田氏像を造り出したのかもしれない。
 どの世界でもいえることだが、若くして桁外れのエネルギーと突出した技術を持つ人間が現れると、周りの人たちは煙たがり、潰しにかかる。しかし彼は恐れるどころか剣客のように迎え討つ。反対に訪れた客には笑顔で言葉を交わし、まるで一流ホテルのホテルマンのようなホスピタリティを披露する。職人にありがちな自己満足に陥らないのは彼の天性なのだろう。
 スマートで器用な人間ばかりが受けるこの時代に、まさに命がけでひとつのことに打ちこむ料理バカといってもよいくらいの、純粋で人間くさい料理人をご紹介する。

●企画・構成・取材・文・制作/大海 淳宏
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.16 【フーガ 2003年 5月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2003年4月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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