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No.42

いただくといふこと。
坂寄寛がたどりついた料理の愉しみ

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 客がたくさん入っているからといってすべてがいい店とは限らないが、いい店は必ずたくさん客が入っている、というのが飲食店に対する私の見方だ。
 客が入らないと、その理由を立地や景気や住んでいる人たちの食に対する意識など他に求めたがるものだが、多少の時差があろうとも、いい店はやがて必ず評価される。フランスの三つ星レストランはかなり辺鄙な場所にあることが珍しくないが、それでも、そこを訪ねる人が大勢いる。どんなに世の中が変わろうとも、いいものを求める人間は必ずいるのだ。
 宇都宮市郊外の、のどかな場所に店を構える〈Kansaka ポッシュビス〉は、わずか八席ということもあるが、なかなか予約を取りにくい店である。食べることに意識の高い人たちに評価されている店だと思う。
 そのレストランのオーナー・坂寄寛氏が、食べるということの本質に真っ正面から向き合っているからだろう。流行などには目もくれず、自分の信念にしたがってコツコツと料理を続けている。そういう人がきちんと評価される世の中を成熟社会というのではないだろうか。
 
「いただきます」
 私たちがさりげなく発しているその言葉の意味をもう一度考えてみるべき時期にさしかかっているのではないだろうか。食べ物が周りにあふれ、そのありがたみが実感できにくい世の中だからこそ、あえてそのことの本当の意味を問いなおしてみたい。
 その際、坂寄氏のアプローチがわれわれに大きなヒントを与えてくれることはまちがいない。外食のトレンドがどんなに変わろうとも、不変の価値、そういう高みを目指している人にこそ幸福の女神は微笑むのだと思う。いや、四の五の言わず、彼がつくってくれる料理をただ味わい尽くせば、それだけで食の基本に立ち返ることができるのかもしれない。
  
 まずは坂寄氏の料理を味わってみよう。彼の料理を構成する細かい襞の裏側にまで意識を働かせ、自然界にある命をいただくということはどういうことなのか、感覚を研ぎ澄ませて味わう。漫然とではなく、五感をフルに活用して味をキャッチするのだ。すると今まで気づかなかった微妙な味を感じ、食べることの歓びをいっそう享受している自分に気づくにちがいない。そして、食べられる運命にあった命の数々やそれらを料理してくれる人たちに対し、おのずと感謝の念を抱いているはずである。そうなれば、食べることはますます愉しくなるのである。

●企画・構成・取材・文・制作/髙久 多美男
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.42 【フーガ 2005年 7月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り

●定価/500円(税込)
●月刊
●2005年6月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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