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No.63

サクラサク。
陶芸家・島田恭子の咲かせる花

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 桜を見ると、悲しくなるのはなぜだろう。春がきて、桜の花が満開になるのを何よりも楽しみにしていたはずなのに。咲き誇る桜をいざ目の前にすると、どうしようもなく心が切なくなる。ほかの花で、こういった気持ちになることはあまりない。どうして桜は、こんなにも私の心を揺さぶるのだろう。あっという間に咲いて、あっという間に散っていく桜の花。ぼうっとしていると、すべての瞬間を見逃してしまう。だから私たちは、満開の桜の下で酒を飲み、語り、歌い、踊るのだ。刹那的な桜の、その一瞬の美しい姿を、心に焼きつけておくのだ。
 益子在住の陶芸家・島田恭子さんの作品には、多くの桜が描かれている。もちろん桜以外の花や植物をモチーフにした作品もあるのだが、どうしても桜が描かれた作品を贔屓にしてしまう。月の光に優しく照らし出された夜の桜は、淡く、幻想的に浮かび上がる。島田さんの描く桜は、私たちがいつかどこかで見た桜。心の中に、きっと誰もが持っている自分だけの風景。私たちの人生のワンシーンが、島田さんの桜の中に存在しているのだ。
 春は、多くの出逢いと別れが交差する季節。忘れられない大切な景色の中には、気がつけばいつも桜が咲いていた。桜に特別な想いがするのは、きっとそういうことなんだ。上品で奥ゆかしく、はかなげな美しさを持つ桜は、まさしく日本人本来の姿ではないか。また桜には、そんな姿とはうらはらに、なんとも言えないおどろどろしさや、怨念めいた暗さもある。人でも、ちょっと陰のある男性や女性に魅力を感じることがあるように、「キレイなだけじゃないのよ」といわんばかりに咲き乱れる桜はやはり、魅惑的である。
 今年もまた春がやってきた。桜も私もそれぞれ一つ年を取り、去年とは違う出逢いや別れを経験し、去年とは違う桜の景色を心に刻む。それは、島田さんが今年咲かせた桜と、きっと重なり合うだろう。私はその風景を、いつでも思い出せる。季節が変わっても島田さんの桜が、静かに咲き続けているから。

● fooga No.63 【フーガ 2007年 4月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2007年3月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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