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No.76

書に尽くし、書に生きる
上松桂扇の心に宿る、上松一條の魂

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 私たちは人生の最後を迎えた時、どんなことを思うだろう。これまでのことを振り返り、何かを成し遂げたり、まっとうした人生だったと思える人が、どれくらいいるだろうか。
 人は日々、反省や後悔をくり返し、成長していく。そうでない人も中にはいるが、多くの人は、目に見えなくても毎日少しずつ変化している。そして、自分にしかできないもの、自分だけができることを見つけ、身につけていくのではないだろうか。
 しかし残念なことに、それが何であるかという答えを探し出すことは、とても難しい。生涯をかけて探し続けても、見つからない場合が多い。だから、生きている間に何か一つでも、夢中になれるものを見つけることができたら、それは幸せなことなのかもしれない。
ある一人の書家の生き方にふれて、そんなことを思った。
 書に尽くし、書に生きた人。上松一條の生涯は、書に捧げるためのものだったといえるだろう。二〇〇五年に八十歳でこの世を去るまで、書から離れることは、一時もなかった。
若い頃は毎月半紙を二〇〇〇枚、全紙を一〇〇枚使い切るほど臨書、研さんを重ねる日々を送り、晩年も毎日三時間は欠かさず筆を握ったという。
 高い評価を得てもけっして前へ出ようとはせず、粛々と自身の書と向き合う姿は、多くの弟子たちにとって、書に限らず、人として生きる手本となっていた。
 そんな上松一條の晩年を、一番近くで見守り続け、その生き方や想いを引き継いでいる女性がいる。名前は上松桂扇。彼女にとって師匠であり、養父でもある上松一條。その魂は、今も彼女の中で生き続け、小さな体と大きな筆から生み出される書の中に、存在している。桂扇さんもまた、書に尽くし、書に生きている。
 「上松一條先生が亡くなったとき、とっても穏やかなお顔をしていたんです。何にも悔いのないような、安らかなお顔でした」
 声を詰まらせながら、大切そうにゆっくりと話す桂扇さん。人生を、書を通してまっとうした人だから、そういう表情で旅立ったのだろう。「本人が聞いたら、自分なんてまだまだとおっしゃるでしょうね。それくらい謙虚な人でしたから」桂扇さんは笑う。
 続けるなんて思ってもみなかったという書の世界で、気がつけばいつの間にか自分も生きていた。
 「私には、これしかありませんから」
 そう言い切る桂扇さんの顔は、とても清々しい。それは、一つのことに全力で向かって。それをやり遂げようとする人だけが持つ爽やかさだ。
 努力することを、忘れてはいけない。そう言い続け、ひたむきに、ただひたすらに、書に生きた上松一條。その心を受け継ぐ、上松桂扇。下ろされた筆から生み出される文字には、女性らしからぬ厳しさが漂う。まるで、人生を捧げることができる何かが、あなたにはあるか、と問われているみたいだ。襟を正して、胸に手を当てる。私にもあなたにも、そう言えるものがあるだろうか。

● fooga No.76 【フーガ 2008年 5月号】

●A4 約90ページ オールカラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2008年4月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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