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No.88

カリスマ模型師 芳賀一洋の創造力

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 ソファに座り、足を組む男性、芳賀一洋、六十一歳。帽子をかぶり、白いシャツとジーンズの着こなしが様になっている。ステッキをついているが、足が悪いわけではない。帽子とステッキ、これは彼のスタイル。曰く「シャーロック・ホームズだって、チャップリンだって、ステッキをついているでしょう」。
 この姿はまるで映画のワンシーンのようだが、彼の職業は俳優ではない。「模型師」である。模型師という肩書きが適切かどうかはわからない。実際に彼のような職業はないのだから。造形作家とも、立体絵画作家ともいわれるが、どれもしっくりこないという。

 芳賀一洋の作る作品は「模型」の概念をくつがえす。模型とはニュース番組の情況説明などで使われる「実物の形に似せて作ったもの」を考えるのが一般的だが、それでいえば彼の作品は模型ではない。またドールハウス、ジオラマなどの言葉があるが、どうもその世界にも収まりきれない。なんといおうか、芳賀一洋は形をそっくりそのまままねて作るのでなく、心の中にある情景を再現しているのだ。ときには実物の風景よりも、見る者の心を揺り動かすだろう。たとえば、錆びたバケツ、はがれかけたトタン屋根、建て付けの悪いドア、薄汚れたカーテン。どの場所にも人の気配、息づかい、ぬくもりを感じる。見ているうちに、そこに自分がたたずんでいる。一つひとつの作品の世界に引き込まれていく。
 この小さな箱の中に込められた小宇宙は、芳賀一洋の創造力によるものだ。すべての作品はかたちも色もディテールも決まっていない。材料も作り方もそれぞれの作品ごとに考える。驚くことに詳細な図面は描かないという。精巧な作品を作るには、精確な寸法が要求されるが、その寸法は頭の中にある。
 作業を進めるにつれてその思考は深く、密に、細部にフォーカスされていくのだろう。床のキズひとつに至るまで、彼の感性が納得するまで試行錯誤は続く。そしてでき上がった作品は最初からすべて形が決まっていたかのような完成度になる。
 こんな独自の世界を創る芳賀一洋だが、模型歴は十四年ほど。それまで模型を作ったこともなかった。模型師になる前は、ウレタン屋、ラーメン屋、洋服屋と異なる職業を渡ってきた。本人にとってみれば「僕には毎朝ネクタイ締めて満員電車に揺られて会社に行く真面目さとか、勤勉さがなかっただけ」。
 以前は七店舗もの店を持ち、商品の企画から従業員の管理までこなしていた。もしそのまま順調な経営状態が続いていたら、模型を作らなかったかもしれない。

 ともかく彼は、自分が洋服屋をやめて模型で身を立てていくことになろうとは思ってもいなかったのだ。
 そう、一九九五年の、あの夏の暑い日が訪れるまでは…。

●企画・構成・取材・文/青木 和子
●デザイン・レイアウト/都竹 富美枝
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.88 【フーガ 2009年 5月号】

●A4 約80ページ オールカラー刷り

●定価/500円(税込)
●月刊
●2009年4月28日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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