もう一度やってみなさい。また失敗しなさい。もっとうまく失敗しなさい。
『ゴドーを待ちながら』で知られる劇作家・小説家のサミュエル・ベケットの言葉だ。ノーベル文学賞を受賞しているベケットは不条理演劇を数多く残したことで知られるが、不条理というこの世の負の部分を表現した作品が注目されるのも、負の部分から見えてくる真理の方がより現実的で、そっちの方が世界を支配していて、その先に正があると思えるからではないだろうか。
誰でも失敗するのは怖い。
だから、失敗しないためにはどうすればいいかを考える。
失敗するくらいなら、何もしない方がいいと考えることもある。
世の中を見渡すと、成功するための指南書や、失敗しない方法を教えるものはたくさんあるけれど、失敗した時はどうすればいいか、ということを教えるものはあんまりないような気がする。
失敗談から失敗の本質を導き出すことは、事前対処の準備としては役に立つ。
しかし、どんなに準備をしていても失敗することはある。
そんな時はどうすればいいのか。
心の置き所、気持ちの切り替え、行動、言動など、失敗した後の対処の仕方で、その後の人生は大きく変わると言っても言い過ぎではない。
柔道でもっとも重要なのは受身だという。
自分で倒れる時も、相手から投げ倒される時も、怪我をしないよう、極力痛みを軽くして楽に倒れるようにすることが一番大切なのだと。
柔道女子70キロ級金メダルを獲得した新井千鶴選手と準決勝で対戦し、死力を尽くして銅メダルとなったロシアのマディナ・タイマゾワ選手。彼女は受身によって勝ち進んだのではないかと思うほど、受身が素晴らしかった。とにかく体が柔らかく、新井選手も彼女の柔軟な体には苦戦していた。寝技がまったくかからないのだ。仕掛けても仕掛けても、腕からするりと抜けてしまう。
なるほど倒された時は柔軟性がものをいうのかと感動した。
倒れることや、失敗を遅れていては何もできない。
倒れるのも失敗するのも、チャレンジしたという証。
失敗しないように先手を打つのも大事だが、それよりも失敗してもまた立ちあがる術を身につけた方が、経験も人間性も格段に豊かになるのではないだろうか。
柔軟性というのは、そこから生まれるような気がする。
失敗することを恐れて何もしないより、チャレンジして、失敗して、またチャレンジして……。
もっとうまく失敗してみよう。
そうすれば怖いものなし。
今回は「雲の峰」を紹介。 夏といえば海、山、そして雲。夏の風景には、必ずと言っていいほど入道雲が登場します。この入道雲が「雲の峰」。続きは……。
(210803 第736回)