「わたしの・すきな・もの」とは、私を育み、励まし、守ってくれたもの
生物学者の福岡伸一氏の言葉である。著書『わたしのすきなもの』の「あとがき」にあった。「あとがき」には、本文には書かれていない著者の本音が書かれていることがよくある。福岡氏の場合もそうで、タイトルに隠された、言葉にできない「母への思い」が書かれていた。
子供の頃に好きだったもの。
夢中になったもの。
大切な友だち。
大人になって体験し、感動したこと。
旅の思い出。
新しい出会い。
未知なるものへの好奇心。
……。
人生を振り返れば、歳月を彩ってきたものの多さに驚く。
誰もが子供だった頃、無邪気に、気の向くままに、興味の対象へまっしぐらだったはず。
「?」と「!」を繰り返し、好きなものや興味のあるものが絞られていったことだろう。
それがいつの間にか、社会という四角い箱の中でシャッフルされて、好きなものがわからなくなってしまった人は多い。
「あなたの好きなのものは何ですか?」
と聞かれて、すぐに答えられる人と、そうでない人がいる。
答えられない人も、好きなものがないわけではない。
ただはっきりと、それを「好き」と言えないだけなのだ。
「身近な常識」に当てはめて、恥ずかしさや、後ろめたさが「好き」と言わせないだけで。
けれど、福岡さんの言葉を借りれば、すぐに「好き」を思い出せるかもしれないし、好きなものもはっきり「好き」と言えるのではないだろうか。
――「わたしの・すきな・もの」とは、私を育み、励まし、守ってくれたもの。
これまでの人生で、自分を育み、励まし、守ってくれたものとは何だろう。
家族、友達、音楽を聴くこと、楽器を演奏すること、歌うこと、踊ること、本を読むこと、日記をつけること、詩を書くこと、絵を描くこと、昆虫採取、物づくり、料理、片付け、花を育てる、植物鑑賞、映画鑑賞、人のお手伝い、勉強、運動などなど。
ものであれ、人であれ、今の自分があるのは、「わたしを育み、励まし、守ってくれたもの」のおかげ。
それはすべて、「わたしの好きなもの」と思って間違いない。
今回は「柄杓星」を紹介。 天の中心を示すかのように、北の空でひときわ大きく光輝く北極星。天空のすべての星を支配し、宇宙を司る天帝として不動に鎮座するその星の側で、帝を守るように周囲を巡っている北斗七星。この星の和名が「柄杓星(ひしゃくぼし)」です。続きは……。
(210821 第741回)