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紺碧の将

その一歩のところに新しい世界が広がっている

星野富弘

 頸髄損傷で手足の自由を奪われ、口に筆をくわえて絵や文を書く星野富弘さんの詩のひとつだ。
「与えられることと失うことは同じ重さ」という星野さんが書いた詩は、想像を絶するほど重いものを失ったとは思えないくらい軽やかだが、その軽やかさは深く深く沈んだ後に浮き上がってきたものだからか、まるで神の声に聞こえる。詩画集『種蒔きもせず』から抜粋した。
 
「その一歩のところに新しい世界が広がっている」
 
 星野さんのいう「その一歩」とは、「苦しい時の一歩」。
 ノコンギクの花の絵に添えられた、わずか5行の詩。
 

 ――   苦しい時の一歩は
    心細いけれど
    その一歩のところに
    新しい世界が
    広がっている
 
 元気な時だって、一歩を踏み出すのは怖い。
 苦しい時なら、心細いどころか逃げ出したくなるだろう。
 たった一歩なのに。
 その一歩が踏み出せない。
 
 知らない道だから。
 知らない世界だから。
 いるかいないかわからない幽霊に怯えるように、足がすくむ。
 
 何かを失うかもしれない。
 何かが壊れるかもしれない。
 手にしているものを無くしてしまう恐怖に、二の足を踏んでしまう。
 
 たかが一歩、されど一歩。
 簡単なようで、簡単ではない。
 
 でも……。
 と、「一歩」を真剣に考えるのは、たいてい「本当に苦しい時」ではないか。
 
「与えられることと失うことは同じ重さ」だという星野さんなら、言うかもしれない。
 
「踏み出せない足の重さの分だけ喜びが待っているはず。
 苦しんだ分だけ、一歩先には新しい世界の幸せがあると思う。
 だから、心細いだろうけど一歩を踏み出してごらん」と。
 
 苦しい時は、ゆっくりでいい。
 元気になったら、早歩きも、走ることもできる。
 自分のペースで進んで行こう。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

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 今回は「夜の秋」を紹介。秋の夜ではなく、「夜の秋」。秋とは言っても夏の季語で、夏の終わりに感じる秋の気配を俳句の世界ではこう表現するのだそうです。続きは……。

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(210825 第742回)

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