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紺碧の将

小さきものの命を守ることは自分の命を守ることになる

『すべての小さきもののために』あとがきより

 スコットランドの作家、ウォーカー・ハミルトンの『すべての小さきもののために』のあとがきに、この言葉はあった。訳者の北代美和子さんが書いたものだ。

 本書は1968年に出版された著者ハミルトンの処女作であり遺作である。後に映画にもなったこの本は、わずか160ページの短いささやかな物語だが、ここに描かれている内容は広大で奥深い。現在世界が直面している環境問題や社会問題の核心をついている。
 
 蟻の一穴天下の破れ。
 小事が大事を生む。
 ハインリッヒの法則。
 神は細部に宿る。
 
 これらはすべて、小さなことを疎かにすると大きな損害を被るという先人の智慧である。
 あるいは小さな積み重ねが大きな結果につながる、とも取れるだろう。
 
「千里の道も一歩から」という諺もあるように、事の始まりはすべて小さい。
 
 現在、世界中を震撼させているコロナウィルスは目に見えない。
 その極小のウィルスに人間は恐れ慄いている。
 
『すべての小さきもののために』の主人公のボビーは、幼い頃の交通事故で脳に傷を負った知的障害者。
 彼の導き手であるサマーズは、自動車事故で命を奪われる動物たちの死骸を埋葬する風変わりな老人。
 
 ある日、2人は雌牛に出会った。
 サマーズは、ボビーに教える。
 
「あれがなにか知ってるかい? 坊や」
「雌牛だよ」
「ちがう、ちがう、坊や。雌牛じゃない」
 
 そして、サマーズはこう続ける。
「あれは命だよ、坊や。雌牛の形をした命だ」
 
 雌牛の姿をした命。
 ボビーの姿をした命。
 サマーズという小さな男の姿をした命。
 彼らを脅かす「悪人」の姿をした命。
 
 命は姿を変えて地球上に存在する。
 形の違う、同じ命。
 
 これまで自分たちの命だけを優先してきた人類は今、「コロナウィルス」という目に見えない極小の生命体から逆襲を受けている。
 体の癌細胞と同じように「悪習慣を正せ」とのメッセージだろう。

「小さきものの命を守ることは自分の命を守ることになる」と。
 
 小さな命の声は小さい。
 耳をすましても聴こえるかどうか……。

 それでも耳をすますのだ。

 小さな変化、小さな心の動き、ささやかなものへの意識は、いつか必ず大きな何かとつながり、自分や周りの大切なものたちを守る。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

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(211126 第763回)

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