前事の忘れざるは、後事の師なり
前漢時代に活躍した政治家であり学者の賈誼(かぎ)が記した『過秦論』に、この言葉はある。中国春秋・戦国時代、6国を統治した始皇帝が築いた大国「秦」は、わずか15年で滅亡した。それに対する批判と教訓を賈誼は説いたのである。
歴史は繰り返されるという。
なぜか。
賈誼に言わせれば、人は往々にして「前事を忘れてしまうから」だ。
自然界の生きものたちへ目を転じてみると、鳥も虫も、草花も、生きものはみな学習するらしい。
野生の動物は危ない体験をした場所には近づかないというし、植物も危険に合うごとに環境へ適応するよう変異していく。
生物学者の岡ノ谷一夫さんによると、動物の進化の過程には、かならず淘汰作用があるそうだ。
環境に適応しないものが滅びる「自然淘汰」はよく知るところだが、それ以外にも遺伝子が濃すぎて滅びる「血縁淘汰」、より優れたものが選ばれて生き残るというオスとメスとの愛の駆け引きである「性淘汰」である。
この「性淘汰」の例として、ジュウシマツの生態は興味深い。
彼らが歌う歌は、求愛のために進化していったという。
彼らの祖先のコシジロキンパラは、生存競争の激しい野生ゆえに単純な鳴き方しかしないらしいが、一方でジュウシマツはペットとして飼われているうちに、より効果的にメスにアピールする歌をうたえるよう進化したと。
異性に選ばれることは、より多くの子孫を残せる形質が拡散することにつながる。
つまり、学習するものは生き残り、しないものは滅ぶということ。
賈誼いわく
「世のことわざに『前事之不忘、後事之師也。(以前あった事を忘れずに心に留めておけば、後に手本となる)』とあるように、君子が国を治める為には、過去を観察し教訓を活かし、人事や去就を誤らず、時勢に合せて物事をすすめれば、国は長続きすることは間違いない」
学習する生存者ならわかるだろう。
秦が滅んだ理由もしかり、秦に滅ぼされた6国もおなじ。
韓、趙、魏、楚、燕、斉の6国は、秦に滅ぼされたのではなく、自ら滅びる原因を作って滅びたのだということが。
今回は「薄氷」を紹介。
あたたかな春の気配を感じながらも、肌に冷たい風が残る早春の朝、思いがけず氷の貼った面に出くわすことがあります。うっすらと下方を浮きあがらせて朝日にきらめく春の氷、「薄氷(うすらい)」です。続きは……。
(220306 第782回)