沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
あまりにも有名な『平家物語』の冒頭の一節。100字にも満たないこの冒頭で、普遍の真理が語られる。一度耳にすれば忘れられない、ゆえに昔も今も人の心を捉えて離さないのだ。
―― 祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響あり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
諸行無常を鐘の音に聴き、盛者必衰を花の色にみる。
この世はすべて生々流転であることを、消えてゆく音や移ろう花の色に見出した『平家物語』のかたりべ。
その理どおり、力のあるものもやがて衰えるのだと教える。
かなしいかな、人は地位や権力をにぎるとそこに胡座をかき、謙虚さを失う。
おごり、たかぶり、あたかも神の如くふるまうのだ。
平家一門が海の泡と消えたそもそもの理由も、そこにあった。
貴族、武士、寺院、僧、聖職者……。
歴史を振り返れば、「おごり」「たかぶり」がどんな末路に導くかがわかる。
洋の東西を問わず、数多の歴史は権力者の栄枯盛衰の歴史ともいえるだろう。
歴史は繰り返されるというが、繰り返すのは人間の業。
古典には、そのすべてがつまっている。
源氏方と平家方の栄子盛衰模様から、いかに生きるべきかを学びなおしてみるのもいい。
今回は「薫風」を紹介。
文字からも、みずみずしい若葉の香りがただよってきそうな「薫風(くんぷう)」。新緑の季節にぴったりな言葉です。続きは……。
(220509 第793回)