大切なのは生き方だ。キャリアじゃない
2014年のアメリカ映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』で、とくに印象に残った言葉だ。ダスティン・ホフマン演じる少年合唱団の厳格な指導者、ギャレットのセリフである。天性の美声をもつ主人公の少年ステッドが、複雑な生い立ちを得て成長してゆく過程で、彼をハイキャリアへ導こうとする周囲の声に対し、こう言い放ったのである。
「ボーイ・ソプラノ」というのは、少年から大人になるわずかな間だけにゆるされた天使の歌声。
それゆえ〝神様からの贈り物〟とも言われる。
映画のなかでも、美声を誇っていたステッドは、いよいよ声変わりのときを迎えて戸惑いを隠せないでいた。
そんな彼を励ますように、彼の良き理解者のひとりの先生が、こう言うのだ。
「ボーイ・ソプラノという声は、ほんのつかの間、神様から借りる声だ。やがて消える」と。
それらなぜ、何のために、あれほどキツイ練習をするのか、とステッドは問う。
先生は応える。
「学びに意味がある」
このシーンのあと場面が変わり、ダスティン・ホフマン演じるギャレットが、キャリア志向の同僚との会話の中で言う。
「大切なのは生き方だ。キャリアじゃない」と。
ふと安岡正篤の言葉を思い出した。
「to do goodを考える前に、to be goodを目指しなさい」
ウシオ電機の設立者である牛尾治朗氏が、就職を前にした大学4年のときに恩師の安岡正篤からいただいた、はなむけの言葉だという。
「よいことをしようとする前に、よい人間になろうと努めなさい」
そう言っているのだろう。
よい人間になろうとすれば、自ずとよいことをするようになるもの。
どう生きるのかが大事。
本当の意味でのキャリアは、後からついてくる。
今回は「翠雨」を紹介。
「翠雨(すいう)」とは、若葉どきに降る雨のこと。若葉雨や緑雨、青雨、青葉雨ともいい、まるで青々と萌えさかる若葉の熱をさますかのような雨の言葉です。続きは……。
(220523 第795回)