君の運命の星は君自身の胸の中にある
ベートーヴェンの交響曲第9番『歓喜の歌』の詩で有名なドイツの詩人、フリードリヒ・フォン・シラーの言葉である。運命と聞くと、ベートーヴェンの代表作のひとつでもある交響曲第5番の「ジャジャジャ、ジャーン」が耳で鳴る。この言葉をベートーヴェンも知り得ていたかどうかはわからないが、彼がシラーの詩に感銘をうけたのもわかる気がする。
ふと、数字が風景に見えるというイギリスの言語学者、ダニエル・タメット氏が浮かんだ。
ダニエルさんは、サヴァン症候群とアスペルガー症候群というふたつの複雑な脳障害によって超人的な記憶力を発揮したことで知られている。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたレイモンドと同じ症状だ。(まったく同じではないけれど)
手記でもある著書『ぼくには数字が風景に見える』が出版されるや、世界中で反響を呼んだ。
そこには、発達障害で苦しみながらも「人とはちがう」ことを受け入れ、自分ができることで最善を尽し、立ちはだかる困難を一歩一歩乗り越え成長してゆく姿が描かれている。
シラーの言葉がよみがえる。
「君の運命の星は君自身の胸の中にある」
夜空の星々のように、目には見えなくてもたしかに輝く星はあるのだと、ダニエルさんが言ったような気がした。
宿命が逃れられないものだとしたら、運命は自らの手でたぐり寄せることができる。
自分次第で、運命の星を輝かせることはできる。
ベートーヴェンが魅了された『歓喜の歌』も、こんなふうに歌い終わる。
―― 神の計画により
太陽が喜ばしく天空を駆け巡るように
兄弟たちよ、自らの道を進め
英雄のように喜ばしく勝利を目指せ
……
……
兄弟よ、この星空の上に
父なる神が住んでおられるに違いない
……
……
星空の彼方に神を求めよ
星々の上に、神は必ず住みたもう
「人は神の姿に似せてつくられている」と信じているダニエルさん。
彼の希望と勇気に満ちた運命の星は、暗闇をさまよう人々の心を照らしてくれるはずだ。
今回は「あっぱれ」を紹介。
時代劇や舞台劇、歴史小説などでおなじみの「あっぱれ」は、感動をひとことであらわした言葉です。「すばらしい」「おみごと」「立派だ」と、相手を称賛するときに使われます。続きは……。
(220626 第800回)