日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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紺碧の将

本質をたのしむ、それが知恵だ

長田弘

 詩人、長田弘の言葉だ。「カレーのつくりかた」の中にあった。といっても、これはカレーのレシピではない。詩である。カレーの作りかたを、そのままつづったら詩になった、という感じ。だから、長田流カレーのレシピにはちがいない。

 

 そのレシピポエムを紹介しよう。

 

「カレーのつくりかた」

 

―― そうしなければというんじゃない。

   そうときまっているわけじゃない。

       掟(おきて)じゃなくて、味は知恵だ。

       こうしたほうがずっといい、それだけだ。

       さて、殻つきのカルダモンとコリアンダーを

       手のひらに一杯、それから

       黒コショーとクミンを大さじ一杯、

       クローヴを丸のまま一つまみ、

       シナモンは棒で三本、それらの

       スパイスをかさならぬようにひろげて

       フライパンでかるく炒る。

       全体がカリンとしてきたら、火を止める。

       強火で焦がしちゃ絶対にいけない。

       カルダモンの殻をていねいにむく。

       それから、ぜんぶのスパイスを一緒にして

       すり鉢でゆっくり細かく擂(す)りつぶす。

       サフランをくわえ、赤トーガラシで

       辛味をつけて、さあカレー粉のできあがりだ。

       香ばしい匂いがサッとひろがってくると、

       いつだってなぜだかうれしくなる。

       人生「なぜ」と坐ってかんがえるのもいいが、

       知恵ってやつは「なぜ」だけでは解けない。

       本質をたのしむ、それが知恵だ。

       きみを椅子からとびあがらせる

       とびきりのカレーをつくってあげるよ。

       秘訣はジンジャー・パウダーを混ぜること。

       するどい後味がじわじわと効いてくる。

 

 と、以上が長田流カレーのレシピである。

 だから?

 どこが〝ちからのある言葉〟なんだ、って?

 

 それを考えるのが、「知恵」ってやつさ。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

●「美しい日本のことば」連載中

 今回は「空蝉」を紹介。

「空蝉(うつせみ)」といえば、『源氏物語』を思い浮かべる人も多いでしょう。衣だけを残して姿を消した空蝉の女房に、光源氏が送った歌はみごとでした。続きは……。

(220810 第806回)

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