日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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紺碧の将

科学的知識に我々の実感を譲り渡してはいけない。大事なのはいかに自分の心とからだを経営するか、である

玄侑宗久

 ひさしぶりに玄侑さんの言葉を紹介しよう。筆者の大好きなお坊さんであり、小説家のひとりだ。本棚からふと手に取った玄侑さんの『禅語遊心』。なんど読んでも面白くて、新しい発見がある。これもそのひとつ。

 

 あれがいい、これがいい、これはいけない、こうしたほうが、ああしたほうが……と、世の中はうるさい。

 それは他人のHow toであって、「わたし」のHow toではない。

 

 もちろん、最低限の社会のルールは守る。

 が、生き方のルールは自分できめる。

 

 そんなことを考えていたら、玄侑さんがふらりと現れた。そして、こう言った。

 

 「宇宙無双日 乾坤只一人」

 (宇宙にふたつと太陽がないように、天と地の間には、自分ただ一人しかいない)

 

「いやいや、実際は宇宙には太陽と同じような恒星は無数にあるんですよ。天地の間に、わたし一人ってことも、当然ありえませんよね。ええ、そうです。あなたもいますし、猫も犬もいます。しかしですね……」

 

 と、玄侑さん、ここでひとつ咳払いして、

 

「わたしの日常生活は、わたしを中心に廻っています。ガリレオさんが命がけで説いた地動説も、わたしには関係ありません。あなたもそうでしょう?

 ええ、わたしは天動説で、なんの不都合もないですねぇ。そのほうがむしろ、慈悲を放射できて喜ばれます。

 わたしだってね、今はお坊さんですけど、若い頃はいろいろ……ね、ちょっとここでは言えませんけれども……。知りたいですか? それならわたしの本を読んでいただけると……。

 ええ、それなりに経験はあります。ですから、みなさんの悩みや苦しみも、すべてではないですが、共感できます。

 たしかに犯罪はよくないですね。でも、もしかしたら、ボタンのかけ違いで、わたしも罪を犯したかもしれない。ただそういうご縁がなかったというだけです」

 

「宇宙無双日 乾坤只一人」も、お釈迦さんの「天上天下唯我独尊」も、そういうことだと、玄侑さん。

 

 食べた物で体がつくられるように、見るもの、聞くもの、触れるもの、出会うものすべてで心身はつくられる。

 ゆえに、一人は全体につながり、全体は一人につながる、ということだろう。

 

「いいですか、自分の実感を大切にしてください。科学的知識にだまされちゃあいけませんよ。自分の心と体は自分でつくるんです。情報も食べ物も、自分が必要なものを必要なぶんだけ取り入れればいいんです。そうすれば、他人も自分も傷つけないで、自分らしく生きていけます」

 

 と、遠くのほうで玄侑さんの声が聞こえたような……。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

●「美しい日本のことば」連載中

 今回は「秋麗」を紹介。

 うららかな秋、「秋麗」は「しゅうれい」とも読みますが、もうひとつの読み名「あきうらら」のほうが、なんとなく秋の風情を感じませんか。続きは……。

(221109 第819回)

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