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紺碧の将

〝美しさの基準〟を成熟させていくことが大切です

増田明美

 某新聞の人生案内の欄で、この言葉を見つけた。読んだ人も多いだろう。「老い」を恐れる女性相談者に対し、スポーツ解説者の増田明美さんが贈った言葉である。日本と西欧との「美の基準」は、成熟度があまりにも違いすぎると警鐘を鳴らしていた。

 

 人生相談は、50代の専業主婦からの「老いへの恐怖」についてだった。

 美容や運動、ファッションに気を使いながらがんばってきたおかげで10歳は若く見られる。二人の息子や夫も喜んでいる。けれど年齢には逆えない。入念なシミ、シワ対策も、やがて追いつかなくなる。美しく年齢を重ねていくために内面を磨いていこうと思いつつも、若者たちのピチピチした肌を羨ましく思ってしまう。この気持ちをどうしたらいいか。

 ざっとこんな相談だった。

 

 増田さんは、まず元駐在日米大使のキャロライン・ケネディさんの美しさを例にあげた。

 着任時は55歳だったが、上品で、顔のシワを隠そうとしない姿に、新鮮な驚きがあったと。

 つづいてオードリー・ヘプバーンの、奇跡のような美しさの出所について語った。

 60歳を過ぎた彼女は、写真のシワを修正するかを尋ねられて、

「どのシワも私が手に入れたものだから」

 と、断ったという。のちに彼女の孫は、

「祖母にとってのシワは年齢と経験、知恵の象徴だった」

 と、雑誌のインタビューに語ったそうだ。

 

 この話から『ダウントン・アビー』という、イギリスのテレビドラマの登場人物たちの姿が浮かんだ。20世紀初頭のイギリス貴族とその使用人たちの人間模様を描いた時代劇ドラマシリーズで、メインキャストたちは10年以上もの間、ドラマの中の世紀をまたいだ時間の経過とともに歳を重ね、移りゆく時代背景と次世代へのバトンリレーをまざまざと見せてくれる。

 そこに映る彼ら、彼女らのシワの美しいこと。

 こんなにもシワは美しいものかと、しみじみそう思った。

 

 思えば、欧米の役者の多くは、刻んだシワを誇るかのように、年老いた姿のままでスクリーン上に現れる。

 当然、手入れはしっかりしているだろうが、それはシワを隠したり無くしたりというものではないと思う。

 それよりもむしろ、「いかにシワが美しく見えるか」という努力。老いを嘆いて人生を無駄に過ごすよりも、いまの姿をすべて受け入れ、残りの人生を謳歌しよう。そういう気概が、美しいオーラとなって感じるのだ。

 

 増田さんはいう。

「若さばかりを評価する日本の社会はまだ成熟していない気がします。欧米ではセレブと言われる人ほど、顔のシワを気にしませんもの。美しいあなたの〝心の成熟度〟が増せば、鬼に金棒です」

 

 老いには逆えないけれど、心に刻んだ経験というシワを、美しく表現することはできる。

 熟れた果実がそうであるように、美しさの基準を成熟させれば、色も香りも美味になるにちがいない。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

●「美しい日本のことば」連載中

 今回は「秋麗」を紹介。

 うららかな秋、「秋麗」は「しゅうれい」とも読みますが、もうひとつの読み名「あきうらら」のほうが、なんとなく秋の風情を感じませんか。続きは……。

(221214 第824回)

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