最高峰を我先にと登るような野心からではなく、今の自分に何ができるかを地道に積み上げていった結果が日本人初のエベレスト登頂につながった
マッキンリーの山に消えた日本が誇る登山家、植村直己さんの言葉(?)。というより、生き方だろう。某フリーペーパーで同じく登山家で環境活動家の野口健さんが語っていた。高校生の頃に旅先で出会った植村さんの著書『青春を山に賭けて』が分岐点となって、その後の人生が拓けたのだと。
人生は小さな選択の積み重ねである。
朝起きてから夜寝るまでの間に、幾度となく繰り返される選択が「今日」という1日をつくる。
それが、2日、3日、4日…1週間、2週間、一ヶ月、一年、…… 一生とつづく。
荒業で知られる「千日回峰行」を2度も行った、比叡山飯室谷不動堂長寿院住職の酒井雄哉老師は生前、「一日一生」という言葉を残している。
「今日の自分は草鞋を脱いだ時におしまい。そこから明日生まれ変わるために、一生懸命反省すればいい。復習するわけだな。
……今日の自分は今日でおしまい。明日はまた新しい自分が生まれてくる。
一日一生、だな。……今日を大切にしなかったら、明日はありませんよっていうことでもある。
今自分がやっていることを一生懸命、忠実にやることが一番いいんじゃないのかな」
思えば「一生」と書くときは数字の「1」ではない。
パソコンで変換されるのも漢数字の「一」で「一生」となる。
デコボコだろうが、くねくね曲がっていようが、あちこち枝分かれしていようが、人の生はひとつづきの道。
だれもが「一生」という道の上を歩いている。
遥か向こうに何が待っているかはわからない。
わかるのは、今この時の風景だけ。
右か左か、上か下か、赤か黒か、進むのか止まるのか、やるか、やらないか。
目の前に差し出された風景を、どんなふうに見るのか、どんなふうに描きたいのか。
それを決めるのは自分自身。
色もかたちも、今の自分の色とかたち。
停学処分を受けて、父親から歩き旅に出てこいと言われ京都に向かった野口健さん。その旅先で植村直己さんの生き様に出会い、人生の歩き方が変わっていった。
「今の自分に何ができるかを地道に積み上げていった結果が日本人初のエベレスト登頂につながったと知って、自分もコツコツやっていけばできるかもしれないと思わせてくれた。人生の分岐点となる旅でした」
ひとつの山を登りきったあとは、また次に登りたい山があらわれる。
コツコツと、今の自分にできることを、一日、一生とつづけてゆけば、踏破した山頂の風景は広大で、バラエティゆたかな色とかたちを見せてくれるにちがいない。
今回は「やんわり」を紹介。
他国語と日本語の大きなちがいといえば、漢字、カタカナ、ひらがな、ときにはローマ字と、文字の種類が多いことでしょうか。続きは……。
(221221 第825回)