沈黙とは単に「語らざること」ではない
マックス・ピカート
マックス・ピカートの『沈黙の世界』がおもしろい。
沈黙とは何か。
ピカートは、沈黙を「人間の根本構造をなすものの一つ」だと定義する。
何をこむずかしいことを言っているのだと思うかも知れない。
だが、そうではない。
沈黙は語る。言葉以上に。
目は口ほどにものを言い、大自然はたえまなく語りつづける。
「黙して語らず」というのは、単に何も言わないということではなく、語らねばならないことを語ったあとに広がる沈黙、あるいは、語られている言葉のうしろにある沈黙の世界のことを言っているのだろう。
ピカートはこうも言っている。
「もしも言葉に沈黙の背景がなければ、言葉は深さを失ってしまうであろう」と。
言葉にある沈黙の背景とは何か。
それは、積み重ねられた時間であり歴史である。
古の言葉には、その言葉が生まれた歴史的背景が数多くふくまれている。
カタカナ言葉が横行する世の中だからこそ、自国語を見直したい。
きっと、沈黙が語りかけてくるはずだ。
(151128第142回)