種から初めに出るのは「芽」ではなく「根」だ
以前にも紹介した「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則氏の言葉である。
自然を相手に仕事をする人は、無意識のうちにこの世の真理を掴んでいるのだろう。
インフラが整った現代は、土の上を素足で歩くことはもちろん、都会にいると土の地面にお目にかかることも少なくなった。
ますます地球から遠ざかっているような気がするのは気のせいだろうか。
種をまくと地面からひょっこりと小さな双葉が顔を出す。
そんな光景を見たことがある人は多いはず。
小学校の夏休み、アサガオの種を植えて観察日記を付けた記憶も思い出される。
だからだろうか、種が育って一番最初に出すのは「芽」だと思っていた。
しかし、木村さんいわく、すべての植物の種は、最初に「根」を出すのだそうだ。
「自然界の作物は、本来、根が充実しないかぎり地上部を育てようとしない。ところが、ある時期がくると突然、びっくりするほど地上部が成長する」
われわれは芽が出たとたん、「早く育て、早く育て」と水をやり肥料をやりと、種のきもちも考えないで芽を無理矢理ひっぱりあげようとしてしまう。
自然栽培では、地上部の初期生育が一般栽培の作物よりもゆっくり育つのだというが、なぜそうなのか。
「何かを成すためには我慢の時期も必要です。どんなことでも、目には見えないけれど、その下準備の労がある。その労が多ければ多いほど、きれいな花を咲かせるのです」
苦労の末に、実ったリンゴを愛おしむ木村さんの慈悲深い笑顔が目に浮かぶ。
(160526 第199回)