生活と生きる(自己に生きる)とは違う
熊田千佳慕
以前にも紹介した〝プチ・ファーブル〟こと細密画家の熊田千佳慕氏の言葉。同書『私は虫である』から抜粋した。
98歳の天寿を全うした老翁の言葉はどれも、その長さ故か、天との交信のあらわれであるかのようだ。
生活と生きるの違いを、千佳慕氏はこう言い切る。
「生きるということは、ある一つの目的に向かって、一日一日を積み重ねていくことです」
生活が日常を支えていることは言うまでもない。
しかし、目的のない生活は、与えられた命の時間をただやり過ごしているだけにすぎないのではないか。
千佳慕氏の言葉に、目が覚める思いがした。
ともすると、人は日常のあれやこれやに翻弄され、生活するだけで精一杯ということになりかねない。
生活は生きていくうえで大事なことだが、「生活」という文字が示すように、「生(生きる)」と「活(活動)」をあえて分けて考えるならば、生活は「生きる活力」とも捉えられるのではないか。
何を活力として生きていくのか。
それが生きる目的になるのだろう。
千佳慕氏の人生は、彼が描く小さないきものたちのように、その生を全うしようと、一瞬一瞬が光り輝いていたのにちがいない。
(160823 第228回)