仕事の真価は“すぐ”の周辺にはないのだ
作家、伊集院静が成人を迎えた二十歳の若者たちへのメッセージを収録した『伊集院静の「贈る言葉」』より抜粋した。
二十歳になったら大人かというと、そうではない。いまだ大人になりきれない大人は世の中にゴマンといる。大人になるとはどういうことか。その第一歩は「孤独を学ぶ」ことだと著者はいう。
インターネットの普及によって、世界は“すぐ”手の届くところまでやってきた。1万キロメートル以上も離れた地球の裏側の“今”が、ものの数秒で目の前に現れる。
まったく驚きを通り越して恐怖すら覚える。
電気の波は「いま、すぐ」という感覚を人間に植えつけてしまったようだ。
なんでも早ければ早いほどいいのだと。
そんな人間たちに伊集院静は物申す。
「すぐに手に入るものは砂のようにこぼれる。
いいものは時間がかかる。
役立たずと陰口を言われても気にするな。すぐに役立つ人間はすぐに役に立たなくなる。仕事の真価は“すぐ”の周辺にはないのだ」
苗木がすぐには巨木にならないように、種からすぐに花が咲かないように、物事には順序と時期というものがある。
「いま、すぐ」を称賛する老若男女諸君。伊集院静のこの言葉をかみしめよ。
「すぐに酔う酒は覚えるな」
そう、いい酒は酔わないのだ。
じっくりゆっくり味わいながら飲んでほしいと、時間をかけてていねいに作られているから。
(170106 第273回)