日本より頭の中のほうが広いでしょう
『三四郎』より
ちょっと前にも紹介した夏目漱石の『三四郎』からの一文である。
熊本から上京する三四郎が汽車の中で出会った「先生」と交わしたときのセリフのひとつがこれだ。
「なぜこれが格言に?」と思う人もいるだろう。ところがどっこい。この言葉をよくよく読んでみると、はかりしれない宇宙的な広がりを意味する深い名言であることに気づく。
「大いなる哉(かな)心(しん)や」
臨済宗の開祖、栄西禅師が記した『興禅護国論』はこの言葉ではじまる。
「大いなる哉心や、天の高きは極むべからず、しかるには天の上に出づ」と。
心とはなんと大きく広いものであろうか。
天はどこまでも続いて果てしない。
しかし、心はその天をも超えて果てしない。
どうだろう。
三四郎が「先生」から聞いた「日本より頭の中のほうが広いでしょう」という言葉に重なりはしないだろうか。
天空から見下ろせば、人間なんてちっぽけな存在にすぎない。そのちっぽけな存在であるにもかかわらず、心や体は広大無辺な宇宙と同じ広さと深さを持っているのだ。
抱えている問題など、宇宙から見れば塵芥のようなもの。
「先生」のように飄々と笑って楽しく生きようではないか。
(170115 第276回)