片目をつむるというのは、見て見ないふりじゃなく、つむっている片目で自分の心の姿も見るといいのね
三浦綾子
以前紹介した『塩狩峠』の著者、三浦綾子の言葉。クリスチャンであった彼女だからこその視点である。
イギリスの神学者、シラーの「結婚前には両目を大きく開いて見よ。結婚してからは片目を閉じよ」という最後の言葉を幾たびも反芻したのにちがいない。
後年の作品が、彼女の言葉を夫が書き留めた口述筆記だったということを鑑みても、どれだけ二人が互いを思いやってきたかが伺える。
それもこれも、閉じ合っている片目の視線がおのおのに向けられていたからではないだろうか。
片目をつむるのは、何も伴侶に対してだけではない。
他者との関係を良好に維持していこうとするならば、つむった片目の視線は自分の心に向ければいい。
わがままになってはいないか、相手を思いやっているか、感謝を忘れてはいないか、素直さを忘れてはいないか…。
出会いは両目で、継続は片目で。
視線の先を変えるだけで、見える景色も人の器も奥行きが出ることだろう。
(170211 第285回)