桃栗三年、柿八年、柚の大馬鹿十八年
壺井栄
『二十四の瞳』で知られる作家、壺井栄の文学碑に刻まれている言葉である。
「桃栗三年、柿八年」の後につづく言葉はいろいろあって、「柚は九年の花盛り」とも言うのだそうだ。
壺井は、故郷の小豆島では「柚の大馬鹿十八年」と言うことを聞き、その言葉をいたく気に入ったという。
「9年目の花ばかりを喜びとせずに、気の長い18年を大馬鹿とののしりながら待っている人間も人間らしくおもしろければ、馬鹿といわれながらも結局は実をならせる柚もまた、おもしろいではないか」と。
一粒の種が芽を出し、大きくなって花が咲く時期はそれぞれちがう。
いわんや実においてをやである。
柚は9年経って、やっと花を咲かせる。
実をつけるのは、さらにその9年後、ゆうに18年の年月を要する。
しかし、どうだろう。
あのかぐわしい香り。
やわらかな香りの中に、ピリリとしまる高貴な芳香。
ひときわ目立つ個性をはなちながらも、脇役として食材の味を引き立たせる。
大物の風格である。
植物から学ぶことは数知れず。
はやる気持ちや焦る心がでてきたら、ふと立ち止まって見渡してほしい。
はじけんばかりに膨らんだ芽や春を知らせるあたたかい風に、幾たびもの厳しい冬を乗り越え、粛々と生き抜いてきた時を思い、愛おしさを感じることだろう。
(170304 第292回)