しごとというものはまた、いやというほどこちらの弱点をあばき出すものだ
何度か紹介したことがある、ハンセン病患者のために生涯を捧げた精神科医であり随筆家の神谷美恵子の言葉である。『美人の日本語』の著者、山下景子が集めた言葉集『しあわせの言の葉』の中で見つけた。
何かに一生懸命になればなるほど、己の至らなさや無力さを思い知る。
神谷美恵子が言うように、そのことをいちばん痛感するのは仕事だろう。
知れば知るほど、やればやるほど、未熟な自分自身に腹立たしささえ覚えてくる。
もちろん、手応えや自信につながる何かを手にすることは確かにあるのだけれど・・・。
仕事だけではない。恋愛や親子関係、友人、知人などの人間関係だってそう。
一生懸命に向き合うからこそ、ぶつかり合ったり、一方通行で切ない思いをしたりして、自分の弱さを目の当たりにする。
美点を生かそうと一生懸命になればなるほど、弱点が浮き彫りになる。
ひとつのことを突き詰めた先には、大なり小なり壁が立ちはだかっているものだ。
それはきっと、成長へのいざない。
成長しますか? それとも、そのままでいいですか?
というように。
美点と弱点が入れ替わり立ち替わりながら、人は人生という山を上ってゆくのだろう。
だからこそ、無力感や虚無感に襲われたときは、担いでいる荷物を下ろしてひと息ついてみてはどうか。
眼前に広がる景色は壮大で、吹き抜ける風が火照った体を冷ましてくれるにちがいない。
疲れた身体に清澄な空気が沁みてゆくのもわかるはず。
ちっぽけな自分でも、大自然の中に守られて生きているんだと感じられたら、一生懸命も捨てたもんじゃないと思えるかもしれない。
(171012 第363回)