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紺碧の将
Interview Blog Vol.59

ローカルな情報を地域の人に、楽しく発信してきたい。

株式会社宇都宮コミュニティメディア 代表取締役 局長稲葉克明さん

2018.10.11

 

栃木県宇都宮市のコミュニティFM『ミヤラジ』は2017年3月8日に開局。実際に放送局を創るためには課題も多く、設備投資や運転資金など多額の資金が必要です。SNSが全盛のこの時代に「今さらラジオ?」という声も聞こえたといいます。そのような状況のなか、なぜコミュニティFM放送局の開局に至ったのか。そこには局長であり創設者の稲葉さんが持つ揺るがぬ理念がありました。そして、それに賛同する多くの人たちの想いがミヤラジを誕生させたのです。

栃木県宇都宮市のコミュニティFM「ミヤラジ」

コミュニティFM放送局は、いわゆる普通のAMラジオ局やFMラジオ局とはどのように違うのでしょうか。

 簡潔に言いますと、全国や県域の放送ではなく、さらに小さな市町村レベルの情報を細かく伝える放送局のことです。その役割は大きく分けると2つあります。一つは地域の活性化、もう一つは災害が発生したときの情報伝達です。

たしかに災害発生時はラジオが大活躍しますよね。停電になるとテレビは見れませんし、インターネットの情報もスマートフォンやタブレットでは充電ができないと限界があります。

 1992年にコミュニティ放送が制度化されて、1995年の阪神・淡路大震災でコミュニティ放送が活躍するんです。物資や水を配給している場所とか、その地域の人たちが知りたい情報をピンポイントに、なおかつ10カ国語で放送したそうなんです。それからも大きい震災があるたびに、コミュニティ放送が見直されて、制度の規制が緩和されてきたんですよ。

 それで全国的にコミュニティ放送局が増え、全国で300局を超えたのですが、栃木県だけが、2015年に栃木市の『FMくらら857』が開局するまで1局もなかったのです。

当時は栃木県内でコミュニティFMというものがまだまだ認知されていていなかったんですね。

 2011年に東日本大震災があって、そこで身をもってコミュニティFMの重要性を実感して……。それ以前から仲間とは必要だよねっていう話をしていましたが、いよいよ誰もやらないなら自分たちでやろうって。

ミヤラジは2018年10月現在、開局してから1年と半年ほどしかたっていません。それにもかかわらず会員・加盟店の仕組み、メンバーズカードの発行、メンバーズクラブマガジンの発刊など、運営体制がすでに完成されています。開局前からかなり綿密に計画・準備をしてきたのでしょうか。

 山口県宇部市に『FMきらら』というコミュニティFM局があるのですが、そこをお手本にしているんです。コミュニティ放送局も、他のラジオ局と同じように、基本的にはCM収入や番組スポンサー収入で生きていく会社です。まずは経営を安定化させるために、ラジオだけじゃなくてマガジンを発刊して、その広告収入を確保しながら会員や加盟店を増やすなど、そういったビジネスモデルの部分を勉強させてもらいました。

ラジオがきっかけでソニーに就職

ラジオ関係の仕事をすることは小さい頃からの目標だったのでしょうか。

 ラジオを聞くのが好きで、趣味の一つではありましたが、将来ラジオの仕事をするなんてまったく思っていませんでしたよ。

 ただ、大学を卒業してソニー株式会社に就職をしたのですが、小さい頃に聞いていたラジオや、見ていたテレビがソニー製品だったことが、そのきっかけとなりました。ソニーっていい製品を作るなあと感じていたんです。それで就職活動でソニーを受けたら採用されて。

 長男なので、家族は地元で就職してほしかたったみたいですけどね(笑)。

ソニーでの仕事はどうでしたか。

 ここで経験した仕事は、どれもすごく勉強になりました。最初は全国の販売会社の財務諸表を見る部署だったのですが、そこで経営の数字とか財務諸表の見方を勉強させてもらいました。実務に即した経験ってすごく身につくんですよね。

 3年目には数字だけではなく、実際の現場を知りたくなりました。現場を知らないと、数字の具体的な動き方がわからないですからね。それで営業に行かせてほしいと希望を出して、福岡でカセットテープの営業をしました。ここでも物を売るという経験ができて勉強になったんです。

 それから携帯電話開発の部署でメーカーを相手に技術営業をやって、今度はインターネットが普及してきてそっちのサービス関係の仕事を、そのあとに電子マネービジネスの仕事をやって、それがソニーでの最後の仕事でしたね。どの仕事も楽しくできたし、この時の経験は今でもすごく活きています。

その後ソニーを退職、地元の宇都宮に戻られていますが、何か理由があったのでしょうか。

 2002年に父が急逝しまして……。それで実家に戻ることになりました。しばらくは宇都宮から東京へ通勤していたのですが、遠くに転勤になる可能性を考えるとやっぱり無理かなと思いました。会社の仕事は自分以外の人材で回るかもしれませんが、家のことは他人に任せられないですし。

 思ったよりも早く戻ることになってしまったけど、しょうがないと思いました。

思ったより早くということは、いつかは地元に戻ってくる考えがあったのですね。

 ありました。ただ、もっと先のことだと思っていたんです。それこそソニーを定年あたりまで勤めて早期退職をするかしないか、60歳前後で考えることかなって思っていたんです。その時、私は36歳でしたから、戻るには早いなあと。

 そういう事情で戻ってきたので、地元に戻ってすぐにラジオ局の開局に向けて動き出したかというとそうではなくて、しばらくは何をやるか悩みましたよ。

地域の情報を地域の人たちのために発信したい

なるほど、地元に戻ってきたのもラジオ局を開局するのがそもそもの目的ではなかったのですね。ではミヤラジ開局までの道のりはどのようなものだったのでしょうか。

 まずは経験を活かして、ICカードや電子マネー関係の仕事を探しましたが地方では難しかったですね。父が残してくれた不動産事業を引き継ぐことも考え、宅地建物取引士の資格を取りました。でも、不動産屋ってお客様を待つだけの受け身なイメージがあって。肉体的にも精神的にも積極的に動けるうちは自分で何かしたいと思い、広告ビジネスをはじめたんです。

広告ビジネスに着目したのはなぜですか。

 宇都宮の人って地元の良さを自分たちでアピールできていないとおぼろげながらに感じていました。それ以前に、地元にいいものや楽しいことがたくさんあるのに知らない人が多いんじゃないかって。なぜかというと、栃木県に住んでいる人が見ているテレビ番組やCMのほとんどが東京の番組だからなんですよね。近くでイベントがあるとか、どこにおいしい店があるとか、そういうローカルな情報がテレビでは流れてこないんです。だから地元の情報を流すメディアがあったらいいんじゃないかと考え、動画をメインにした広告代理店、メディアムーブメントという会社を創りました。

 そこでは大通りの二荒山神社向かいの「バンバ・ビジョン」を運営したり、いろいろな仕組みを考えて、効果のあるものを作れたと思うのですが、やっぱりローカルな広告だけで収益をあげるのはなかなか難しいですね。それでも地域に範囲を絞った小さい広告を出したいと思うお店が結構あるんだなって実感できたのが一番の収穫でした。

ビジネスとしては難しいけど、ローカルな情報は発信側にも受信側にも需要があると感じたのですね。

 そうですね。そこで2010年に「宇都宮コミュニティFM研究会」を発足し、仲間と新しい地域情報発信のあり方や運営についてのアイデアを出し合いました。コミュニティFMというメディアだったら私がやりたいローカルな情報発信を手の届く範囲でできるだろうと思ったんです。

ローカルの情報を発信していきたい、その流れの中で2011年に東日本大震災もあり、ますますその必要性を感じたということだったんですね。

 コミュニティFMが必要だという結論は出ても、すぐに開局はできません。どうやって開局の資金を集めるのか、運営をどうするのか、いろいろなことを考えるとビジネスとしては難しいだろうなと感じました。当時、栃木県でやってる人がいなかったのはやっぱり儲からないからなんだろうなって。

 それでも、東日本大震災の直後に、とにかくいま自分たちにできることからはじめようと、動画配信サイト「USTREAM」を使って、毎週水曜日の夜7時から1時間程の情報番組「ミヤラジ 〜宇都宮 愉快な情報局」の配信をはじめたんです。そこがミヤラジの出発地点でした。

ぶれない理念が共感を呼び、一緒に歩む仲間をつくる

USTREAMの活動から5年、いよいよミヤラジ開局へと動き出します。

 2015年にFMきららの社長の話を聞く機会があって、行政の補助なしで黒字で運営しているビジネスモデルを知ることができて「これならできるかも」と思い、一気に開局に向けて動き出したんです。コンサルタントに来てもらって、「宇都宮の規模なら行政の補助に頼らなくてもできますよ」って言ってもらえたことがすごく大きかったです。それなら私のやりたいことがぶれずにできると思いましたから。

やりたいこと、と言いますと具体的にはどのようなことですか。

 結果的にコミュニティFMというメディアにたどり着きましたが、そもそもの出発点は「ラジオ局を開局したい」ではなく「地域の情報を地域の人たちに届けたい」なんです。宇都宮市に住んでいる人や他所から遊びに来た人に正しい情報・楽しい情報を出していきましょうというのが原点なんです。それは今でもぶれることがない理念になっています。

 それができるならラジオでなくてよかったんです。インターネットの動画配信でもよかったのですが、放送局じゃないとCDがかけられないなどの制限もありますし、なによりラジオ放送は正しい情報を伝えるメディアとして確立されています。それに災害が起きたらやっぱりラジオが必要だってみんな言いますよね。

地域の魅力や楽しいことを積極的に発信していくことで、地域の活性化につなげたい。そういう理念があるからこそでしょうか。ミヤラジには協力・応援をしてくれるお店や企業が多いですよね。

 資本金を集めるとき、株主には「初期投資のために出資をしてください。我々は儲けを出して配当ができる会社ではないです。でも災害など、万が一の事があったときに市民のために頑張らないといけないラジオ局なので応援してください」と伝えました。開局にあたりその考えに賛同し、そういうラジオ局が必要だと共感してくれた人たちがいました。

 そして番組を一緒につくってリスナーを開拓していこうと、ともに歩んでくれる人たちもいます。そういった人たちとスタッフに支えられて、今のミヤラジがあるんです。

リスナーを一緒に開拓をするというのは、スポンサーは単に広告を出してPRだけをするという考え方ではないですよね。

 「ミヤラジのリスナーって何人くらいなんですか、あまりいないなら広告効果ないですよね」って言われることもありますけど、そもそもコミュニティ放送のあり方がそうじゃないんですよね。

 リスナー数はたしかに全国放送や県域放送の局には勝てないかもしれない。でも、ミヤラジの広告料や放送料ってすごく安いですから。逆にそれを利用して、一緒に番組をつくって、スポンサーとミヤラジのファンを互いに増やしていくというのがコミュニティ放送の使い方なんです。

 マーケティングツールとしては地味ですけど、長期に渡って放送をしていると、だんだん定着してくる。そういう長い目で見たときはじめてマーケティングツールになるんです。

ラジオにこだわらず、コミュニティを広げていきたい。

生き方や仕事をしているなかで、こだわっていることはありますか。

 まず一つはタイミングを逃さないこと。条件が揃ったと思ったら迷わず行動することですね。

 仕事の上では、ミヤラジの“色”を作っていくことです。県域の放送局にできないことをミヤラジがやる。でも楽しければなんでもアリということではなくて、ちゃんと宇都宮の情報を盛り込む。そこは絶対にぶれないのが最大のこだわりですね。その中でミヤラジならではの特徴を作っていきたいです。

 イメージってすごく大切だと思っているんですよ。電子マネーの仕事をしていたときに、便利だからという理由よりも、かっこいいからとか先進的だからというイメージがあるから使い始めた人が多かったんです。だからミヤラジも「楽しそうなラジオ局だよね」っていうイメージを持たれるように考えて動くようになりました。

 そのためにはスタッフ全員が楽しくやっていなければ伝わりませんからね。個々の足りない部分はチームで補い合う、みんなで作り上げるという意識を持たなければと思っています。

ミヤラジを運営していて、やりがいはどんなところに感じますか。

 宇都宮市では誰もやっていなかったことに自分たちが挑戦していることですね。スタッフのみんなにも、そこをモチベーションに頑張ってもらいたいです。ミヤラジは、毎日朝7時から夜10時まで、15時間生放送でお送りしています。認知度はまだまだ低いですから、もっとリスナーに愛されるラジオ局になって「ミヤラジで喋っているんですね! すごいですね!」って言われるようになりたいですね。「いつも聞いています」って直接の反応をもらえるとやっぱり嬉しいです。

今後の目標をお聞かせください。

 ローカルな情報を地元の人が発信して拡散されるプラットフォームはコミュニティFMというカタチで手に入れました。ラジオ局としては、地元の人たちと一緒に育てていただき、万が一のときには、市民に「寄り添う」放送局でありたいと思います。長期的には、それを活用していくために、インターネットやSNSとうまく連携させて、より楽しい情報発信ができるような場をつくっていきたいです。

 会社名を宇都宮コミュニティ“ラジオ”ではなく、宇都宮コミュニティメディアにしたのも、メディアってこれからいろいろな媒体がでてくるだろうと思ったからです。ラジオ放送を軸にしながら、あらゆる方法でこのコミュニティを広げて行きたいんですよね。それらをうまく使い分けて「ミヤラジでこれだけ情報を広げてくれたよ」って言ってもらえるような、愛されるメディアになっていきたいですね。

Information

【宇都宮コミュニティFM 77.3FM ミヤラジ】

〒320-0802 栃木県宇都宮市江野町7-8 堺屋ビル2階

TEL 028ー666-7897 (平日10:00~17:00) FAX 028-666-7878

ホームページ:https://www.miyaradi.com/

お問い合わせ:https://www.miyaradi.com/contact/

ミヤラジアプリ:https://www.miyaradi.com/apps/

 

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