人の心に響くデザインや写真を発信していきたい。
アートディレクター、グラフィックデザイナー、フォトグラファー石川明宏さん
2018.12.11
長年、レコード会社でグラフィックデザインやアートディレクションなどを担当し、数多くの作品を世に送り出した石川明宏さん。2009年に独立し、後に屋号を「ストーンズリバー」と命名。デザインやディレクションの仕事に取り組みながら、料理写真や風景写真も撮り続けています。写真はどれも美しく、アート作品にも挑戦。一つひとつ丁寧な仕事を心がける、石川さんの仕事への思いやこれからのことを語っていただきました。
レコード会社時代に培った技術
食べ物にしても本のカバーにしても美しく綺麗な写真が多いですね。
ありがとうございます。写真の色調は丁寧に補正・表現することを心がけています。
やはりそうですか。背景がグラデーションになっていたり、美しいですよね。
物撮りをするというよりも、本や料理の世界観をきちんと表現したいと思っています。以前、御社の社長が書かれた『魂の伝承』という本からもいろいろ学びました。その本の表紙写真をSNSで投稿したことがあります。
石川さんは当初、レコード会社に勤めていらっしゃったということですが、ご自身のホームページにはCDジャケットの作品もいくつか掲載されていますね。
あれは、レコード会社時代の作品です。その会社ではデザイン部門に在籍していて、コーディネーター、グラフィックデザイナー、アートディレクター、ヴィジュアルプロデューサーという風に、作品によって様々な関わり方をしながら、デザイン制作の仕事をしていました。
黒澤明監督の作品のジャケットもありましたね。
あれは私の代表作の一つです。黒澤明監督の「お別れの會」で流れていた映画音楽をCD化したアルバムです。そのCDジャケットのアートディレクションを担当させていただきました。
8ミリ小僧「スターウォーズ」のパロディを撮る
ところで、石川さんのご出身はどちらですか。
茨城県です。
小さい頃から音楽系の業界に進もうと思っていたのですか。
私は映像が大好きだったんですよ。小学生の頃から8ミリフィルムで、友だちと「スターウォーズ」のパロディのような映画を撮っていました。
小学生の頃から8ミリフィルムを? どうやってマスターしたのですか。
私が子供の頃、自宅から歩いていけるところに小さな映画館があって、よく親が連れて行ってくれたんです。映画を観る機会が多かったこともあり、自然と映画が好きになっていました。
子供向け雑誌に、紙を組み立てて作る映写機のような付録がついていたんです。それを使って映画館の真似事をして遊んでいました。その付録を私が異常なほどに大切にしているのを知って、あるとき、親が8ミリ映写機を買ってくれたんです。
本物の8ミリ映写機ですか。それはおいくつの時ですか。
7歳の頃です。当時は、まだビデオカメラやビデオデッキなどは家庭に普及していませんでしたから、8ミリフィルムの時代でした。8歳の頃には、8ミリフィルムのカメラを買ってくれました。
そんな小さい頃に、普通は買い与えないですよね。
もともと私の両親は、映画や音楽といったエンターテインメントが大好きだったのです。8ミリ映写機も8ミリカメラも高価だったのですから、今思うと本当にありがたいですね。私は家族旅行の映像記録係になりました。
そういうわけで、それらの道具を使うことができ、友だちと映画撮影に取り組んだのです。
どんな映画を作っていたのですか。
最初に映画を作ったきっかけは、当時、アメリカで大ヒットしていた『スターウォーズ』でした。私が10歳の頃はまだ海外からの情報が少ない時代です。たまたま漫画雑誌の巻頭カラーページで紹介されていました。「これは絶対、観たい!」と思ったのです。日本では『スターウォーズ』が1年遅れで劇場公開されたため、すぐには観られませんでした。ところが、8ミリフィルム版の『スターウォーズ』が販売されていて、それを手に入れ、20分ほどの短縮版を劇場公開前に自宅で見ることができました。
予告編みたいなものですか。
少し長めの予告編のようなものです。その8ミリフィルム版と劇場公開版を観て感激しましてね。『ゴジラ』なども好きでしたけれど、日本の特撮映画と比べ、桁外れに迫力が凄くて、あまりのリアルさに驚きと感激で胸が一杯になりました。それで、パロディのようなものを作りたくなって、友だちを集めてスターウォーズの真似事をした映画を作りました。宇宙船を糸でぶら下げ空中に浮いているようにしたりと、今にして思えば幼稚なことばかりですけどね(笑)。楽しかったです。
やはり、大きくなったら映像関係の仕事をしたいと思っていたのですか。
はい。レコード会社を選んだのも、プロモーションビデオの仕事をするチャンスがあるだろうと思ったからです。もちろん音楽も好きですが、どちらかというと映像を担当したくて入社を希望しました。
何年くらい勤めていらっしゃったのですか。
入社したのが1992年で、退職したのは2009年ですので17年間でしょうか。
黒澤明監督の他にも、特に印象に残っているミュージシャンやアーティストはいますか。
数え切れないほど多くのミュージシャンとデザインのお仕事をしました。その中でもおよそ13年ほど担当した小田和正さんは、特にお世話になりました。小田さんとのお仕事で、クリエイターのあるべき姿など、さまざまなことを学んだのです。多くの皆様から今も愛され続けるアーティストを長く担当できたことは、本当にありがたいことです。
小田和正さんほどのミュージシャンでしたら、固定ファンも多いでしょう。大ヒット作品もかなり多いのではないですか。
私がヴィジュアルコーディネートを担当した『自己ベスト』というアルバムは、380万枚以上出荷されました。
「ストーンズリバー」始動、新たなる挑戦
独立されたのは2009年ですよね。屋号の「ストーズリバー」はどのような意味があるのですか。たしか、1862年に起きたアメリカの南北戦争で、「ストーンズリバーの戦い」という戦闘がありましたが、それと何か関係があるのでしょうか。
よく言われるんですが、南北戦争とはまったく関係ありません(笑)。苗字の「石川」を英語に直訳しました。「ブリジストン(石橋:ブリッジストーン)」さんみたいに。調味料コンシェルジュである妻と共通の屋号としました。
独立した後の仕事はどのように得られたのですか。
ありがたいことに、これまでご縁があった方々や知人の紹介から少しずつ仕事をいただくことができました。
最近、弊社で出版した『攻める老舗』は新宿で3代続く水炊き専門「玄海」の話ですが、石川さんはその店ともつながりがあるそうですね。
そうなんです。服部栄養専門学校の染谷百彦さんは、玄海さんの水炊きを楽しむイベントを毎年企画されています。そのイベントに私も家内も参加したことがきっかけで、玄海さんから撮影などのご依頼もいただくようになりました。
それはいい流れですね。仕事をする上で、先方から依頼があるというのは石川さんの仕事に対する評価でもありますから、次につながりやすいと思います。
ほんとうにありがたいです。作品をご覧いただき、作品に共感して下さった上で、ご縁ある人と仕事ができるのは本当に嬉しいです。家内が料理のレシピを担当し私がその写真を撮る、というスタイルでの仕事も増えてきました。それぞれ単独の仕事も少しずつ増えています。人のつながり、心のつながりをこれからも大切にしたいです。
ご夫婦でそれぞれ違う仕事をしながら、コラボレーションもできるというのはいいですね。
クライアントにもメリットがあるようです。家内が作った料理を私が撮影することで、レシピなどの文字情報、写真、デザインまでワンストップで進められますから、その分、コストも効率化できます。
たしかに、それぞれの専門家に発注するよりも、だんぜんスピーディに事が運びますね。石川さんが撮る料理の写真は、真上からのアングルが多いですが、あれは何かこだわりがあるのですか。
実は仕事で撮る料理写真とは別に、個人的な作品として、自作の料理の写真をSNSで投稿しているんです。私の料理写真は、真上からのアングルが多いですね。私が料理を盛り付ける際は、皿をキャンバスに見立て、絵を描くように盛り付けたいと思っています。
最近は「インスタ映え」する撮り方というのもありますよね。
料理の盛り付けや彩りの美しい写真が好まれます。料理の楽しみ方も多様化していますから、作る楽しさ・食べる楽しさに加えて、撮る楽しさというのもあっていいし、それが食への関心につながってくれると嬉しいですね。
真上から撮ると、食材の配置と全体のバランスがわかりやすいです。仕事で料理の写真を撮る時も、料理人さんの意識する盛り付けや彩りを効果的に伝えたいと思っています。
石川さんの写真集『すみだ・とうきょう物語』は、スカイツリーをいろんな角度から撮影されていますが、スカイツリーがあれほど美しいとは思いませんでした。
東日本大震災の後に撮り始めたシリーズ作品の集大成です。あの震災では、当たり前の日常が根底から覆されました。私自身、当たり前の日常の大切さに気づいたのです。ひとたび大きな災害があれば、一瞬にして見慣れた風景は失われてしまいます。そう考えたとき、未来の人たちのためにも、今の東京の風景を撮っておきたいと感じました。100年後、200年後に生きる人たちに、平成という時代の東京の風景を見て欲しい。そのためにも、四季折々の風景に溶け込むスカイツリーの姿を写真におさめて記録に残そうと考えています。
そうでしたか。どちらかといえば東京タワーの方が趣があると思っていましたが、石川さんの写真を拝見して、スカイツリーのイメージがガラッと変わりました。見る角度や心持ちによって、無機質なイメージの建物がこれほど情緒豊かに映るのかと、考えさせられました。
ありがとうございます。これからも、そう感じていただけるような写真を撮っていきたいですし、人の心に響くようなデザインや写真を発信していきたいと思います。
Information
【from ストーンズリバー 石川明宏】
オフィシャルサイトhttp://www.stonesriver.info
Facebook https://www.facebook.com/akihiro.ishikawa.585
E-mail stonesriver@me.com