あおぞら珈琲の可能性を追求し続け、ファンの期待に応えていきたい。
アフリカ豆専門店 あおぞら珈琲深井大さん
2019.05.25
香りと飲みやすさを重視した、自家焙煎の珈琲が人気のあおぞら珈琲。焙煎士兼オーナーである深井さんの磨き抜かれた焙煎技術によって生み出される珈琲は、多くのファンを魅了してやみません。焙煎珈琲豆の卸売、店舗でのカフェ営業、イベントでの出店を主軸に、どんどん可能性と活躍の場を広げる深井さん。お話を聞くと、ひとつひとつの決断に緻密な計画があり、ひとつひとつの行動に信念と学びがあることがわかります。偶然でも勢いでもない、あおぞら珈琲の成功の理由がここにあります。
エンジニアから珈琲の道へ
あおぞら珈琲は県外からも噂を聞きつけて来店されるお客様がいるほどの人気店です。やはりこの道に進んだのは、ご自身の珈琲好きが高じたからだったのでしょうか。
珈琲は“普通に好き”程度だったんですよね。こだわって飲んでいたとか、カフェを巡って好みの味を追求したりはしていませんでした。飲み物の中で好んでいたのが珈琲で、それこそ缶やパックのコーヒーを飲んでいて。だから、昔からこの道を目指していたとか、商売にしようとか、そういうことは考えていませんでした。
就職など、進路を決めていく過程で珈琲の道を意識をしていたわけではなかったんですね。もともとは車のエンジニアだったとお聞きしていますが、どのようなきっかけがあって、珈琲の道を歩むと決めたのか、とても気になります。
ものづくりが好きで車のエンジニアになりました。車の業界で独立をしたくて、いつか町工場をやれたらいいなと思っていて。でも18歳が描く青写真なんて、具体的なことに考えが及ばないわけですよ。工場を作るのにどれだけお金がかかって、従業員がどれくらいで、とか。
10年以上は夢を持って頑張りましたが、ゼロの状態から工場を持つこと、それがいかに難しいかがわかってしまったんです。
実家が工場をやっているとか、なにかそういう下地がないと、ほんとうの意味でゼロからというのは難しいですよね。
それに加えて、車業界の流れが変わってきたことも大きかったですね。18歳の頃はスポーツカーのチューニングブームがピークだった時代でした。その分野が大好きで、そういうことをやっていきたいと思っていたんです。ところが30歳になる頃、車業界はミニバンとか電気自動車とか、そういう流れになってしまって……。
やりたい気持ちはあるけれども、メーカーがそういう車を作らなくなってきた流れの中で、何千万何億のお金をかけてまでやることかなって。この状況下で、無理を通して独立するのはかなりリスキーだなって思いました。
それで工場を持つことを諦めたわけですね。そこから珈琲の道を選択したのはなぜだったのでしょう。そのまま会社に勤めるという選択肢はありませんでしたか。
仕事は好きでしたし、待遇に不満があったわけではありませんでしたから、このまま勤めていてもいいかなと考えたこともありました。でもやっぱり“自分のやり方”を貫くためには組織人では難しい。独立をしないと駄目なんです。だから独立願望の方が勝ってしまったんですね。
じゃあ次に何をするかをどうやって決めたか。それは消去法でした。
仕事にするなら好きなことじゃないと絶対に続かないと思いました。車・カメラ・珈琲……など、まずは好きなことを並べて、そこから一つひとつの可能性を考えていったんです。カメラで独立をしようと思って、道具を揃えていろいろ試した時期もあったんですよ。
たくさんの選択肢の中で考えて、プランニングして、試してみて、いけると思ったのが珈琲でした。
簡単に決めたわけではなく、熟考の末の決断だったんですね。
そうですね。珈琲の道に進むときも、可能性を探るために、会社を辞め店長候補として働けるお店を探して、実際に2年ほど働いて、その上で決断しましたから。家族も養えて、自分のやり方も通せる。生活のバランスも考えた上でやっていけると思ったのが珈琲の道でした。
自分の個性を出せる珈琲豆の焙煎という工程はものづくりだと思っています。そこが武器になるというか、その部分で戦えると思ったんです。
焙煎を確立する
次の道もはっきりと決まっていない、ましてや仕事内容にも待遇にも不満があったわけではないのに、会社を辞める決断をするのは覚悟もあったと思います。
いま考えると、駄目な決断ですよね(笑)。当時は30歳前半で、勢いがあったから実行できましたけど、例えばいま、そういう決断ができるかって言われたら怖いと感じますよ。
でも会社員って立場だと、所属が大きい会社になればなるほど、“自分のやり方”を通せなくなるんです。上司に「それは無駄じゃないですか」とか「それは時間をかけてでもやった方がいいですよ」と意見を出すんですけど、結果的に抑えられてしまう。
組織人である以上は仕方のないことですが、“なあなあ”とか“暗黙の了解”が嫌いなんです。自分のやり方ならもっと売上を上げられるっていう自負があったんですよ。
それを証明したいという気持ちが強かった。そして否定されてきたことは間違っていないと確認したかった。だから独立を選びました。自分のお店なら、“自分のやり方”を自由に試せますからね。
会社を辞めて珈琲店で勤務。珈琲の道に進むと決断したのは、ここでの経験があったからですね。
この珈琲店で働けたことは大きかったですね。あおぞら珈琲のカフェ兼卸売のスタイルはこのお店と同じスタイルなんですよ。
独立までの道筋が、仕事を経験することでより具体的になってきたんです。仕入れとか売上の数字がわかってくると、家賃や人件費はこのぐらいとか。いろいろなことを吸収できましたし、横のつながりも広がっていったので、これならこの道でやっていけるって思えたんです。
いよいよ独立をされたわけですが、まずはお店を持たずに、卸売やイベントでの出店をメインで活動されています。
お店を持つ前に自分の焙煎を確立して、珈琲の味を定めることが最優先でした。豆の特性を知ることから初めて、試行錯誤の連続です。お金もあまりありませんでしたから、数キロの豆を買って、ちょっと焼いてをずっと繰り返していました。
前のお店のお客様の中には「独立するならあおぞら珈琲で豆を買う」と言ってくれる人もいましたし、イベント出店に関しても、深井という人間の信用で声をかけてもらえたので、そこで収入が確保できたのはありがたかったですね。
こんな珈琲にしたいという、理想の味はあったのですか。
知れば知るほどありました(笑)。最初は缶コーヒーでも満足してましたから、こだわりなんてなかったんです。それがプロとして一歩踏み込んだときから変わりましたね。
やはり勉強のためにいろいろなお店で珈琲を飲むんです。そうすると、だんだん自分の好みが分かってきます。そのうち、スッキリして香りがいい珈琲が好きだなと思うようになり、その上でまた研究するんです。アフリカ豆専門店なのも、実はアフリカ豆ありきじゃなくて、理想の味を求めていったら、アフリカ豆が多かったっていうだけなんですよ。
珈琲を飲むときは必ずメモを取るんです。それを見返して好きな珈琲に順番をつけたらアフリカ豆ばかりだったんです。
その理想の味にするためには、やはり焙煎がキモになってくるわけですね。しかし豆の種類、浅煎りか深煎りか、加熱方法も多様にあるなかで組み合わせは無限にあるように思います。相当な試行錯誤があったのではないでしょうか。
焙煎に関しては論文を書けるぐらいの労力をつぎ込みましたよ(笑)。でもそこがしっかりと確立できているお店はすべて成功していると感じます。やはり珈琲が好きな人はわかってくれるんですよ。そういう人たちに認められると、口コミで広げてもらえますしね。だからこそ、キモである焙煎を最優先に確立しないといけなかったんです。「こういう味イコールあおぞら珈琲」って認識してもらえればお客様に伝わりやすいですから。
学びを起点に
実際に深井さんの焙煎が認知され、それをきっかけにあおぞら珈琲はどんどん成長しています。深井さんご自身もやることが日に日に増えていますね。
独立したら自由にやれて、楽しいことしかないんだろうなと思っていたんですけど、蓋を開けてみたら大変なことも多くて……。だから楽をするため、ひいては効率を上げるために勉強するんですけど、それを続けるとどんどん自分のスキルが上がって、新たにできることが増えていく。結果、次の課題が生まれちゃうんです。そうするとまたそれをクリアするために勉強して……。これがどこまで続くのかと考えるのが、ちょっと楽しいんです(笑)。
珈琲の知識や焙煎の技術は全部独学で磨いていったのですか。
基礎的なことは前のお店で勉強しましたが、焙煎に関しては本を読んで実際にやってみてのトライアンドエラーでした。前のお店でも焙煎をしていましたが、そこは電気式の焙煎だったので。ここで電気式を経験できたのも大きかったですね。やはり自分でやるなら電気式よりガス式がベストだなって比べられましたから。他のお店でエチオピアを飲むとこの味なのに、なんでこっちでは同じ味にならないんだろうとずっと思ってて。原因を探るとやっぱり電気とガスの違いがあったんですね。
そういった経験を元に、基本的には自分で考えて試行錯誤していましたけど、当時は必死でしたから、いろいろなお店に行って初対面の人にも積極的に質問をしましたよ。やっぱり同じ業界の一年生には多くの人が優しく教えてくれるんです。自分だけだと限界があるので、独学ではありましたけど、人ありきの独学でした。
コミュニケーションをいかに取れるかが重要ですね。
興味があることは経験してみる、新しいお店ができたら行ってみる。まずは“知る”ために行動をして、学びを得ながら、人に話を聞いてみるというスタイルは今でも変わらないです。
はじめはただ勉強するためにそのスタイルで動いていたんですけど、それが自然と営業につながることも多くて、途中から「あれ? これって営業になってる?」って気がついたんですよ。
学びが起点になって、コミュニケーションの延長線上に営業がつながっていた。だから“人”とのつながりって重要なんです。独学ではありましたけど、やはり人と人とのつながりがなかったら、今のあおぞら珈琲はなかったと思います。
逆に深井さんとコミュニケーションを取りたくて来店される方も多いのではないでしょうか。
いきなり珈琲の質問をズバッとする方もいますからね。たまにプロなんじゃないかってくらい詳しい人がいるんですよ(笑)。だから勉強だけは怠れません。プロとして、質問されたことに対して知らなかったはNGです。
実は普段は使わない機材を使って、いろいろ試しているんですよ。「こういう機材を使って入れるとどうですか?」って聞かれても、試しているので答えられたりしますし。とりあえず試してみて、よかったら取り入れてもいいわけですから。
看板を背負うということ
多くのファンを獲得され、順調なあおぞら珈琲ですが、その中で課題だと思うところはどんなところでしょうか。
自分が店舗を出払う日が増えている今、納得できる人材を雇えるかどうかですね。妻と二人でやっているので、自分一人で対応できる案件なら店には妻がいてくれますが、大きいイベント出店になると一緒に出ますから。そういうときは臨時休業せざるを得ないんです。よほどの事情がないかぎり店休にしたくないので、常に店舗で対応してくれる人がいると助かります。
ただ、自分がいないからといって提供のクオリティを下げてしまうことは絶対にNGなので、誰でもいいというわけにはいきません。挽いて入れる技術もそうですし、豆を買いに来てくれた人にはちゃんと説明できる知識も必要です。あおぞら珈琲の看板を背負ってもらえる人でないといけません。
やれることが増えてきたがゆえに見えてきた課題も多いですね。人材の問題がクリアできれば、あおぞら珈琲に期待してくださる人たちの要望に、もっと応えることができると思います。
そうなると、例えば店舗を増やすという選択も難しいわけですね。
多くのお客様から2店舗目を作って欲しいと言っていただけるのですが、人材の問題がクリアできないと難しい状態です。
ファンの皆さんがあおぞら珈琲というブランドを信頼してくれているからこそ今がありますから、それを裏切ることはしたくありません。下手に規模を拡大しようとして、大量生産したから味が落ちたとか、よくある話ですよね。それだけは絶対にやらないようにしています。
2店舗目をやるとしたら、そこまで理解をしてくれて、覚悟と情熱を持った人を雇えるまでは簡単にはできないと思っています。
しかし焙煎だけは深井さんにしかできないのでは。これをマニュアル化は難しいですよね。
そうなんです。完全にマニュアル化できない部分が結構あるんですよ。同じ品種の豆でもその時々によってクセが違ったり、夏や冬で温度や湿度も違いますし、そういうところを考慮して調整するのは、どうしたって言語化・文章化できませんから。経験に基づいた勘なんですよね。
試行錯誤していた時代から始まって、焙煎が確立した後も、ひと焼ひと焼メモをとって、微調整の連続で今の状態にたどり着きましたから。その経験があったからこそ、勘が鋭くなったというか、“分かる”ようになったんです。
改めて人材という問題は難しいのだと感じます。
あおぞら珈琲の一員としてやってもらう大変さというか、自分ではそんなに厳しいこだわりはないつもりだったんですけど、改めて言葉にしてみると、「こだわり多いな」って思いました(笑)。
夜遅くにイベント出店から帰ってきて、これから焙煎やらなきゃと思うと疲れを感じますけど、そこがあおぞら珈琲のキモですから。やっぱり手を抜かないで頑張ろうって思えるんですよね。
将来はどんなお店、またはどんな自分でありたいと思いますか。
やれること、やりたいことが広がっていく今、妻と二人体制でどこまでできるか。そのてっぺんを目指したいです。年々効率を上げていく中で、いろいろなことに挑戦すると、お互い限界だと思っていたところよりも上にいけているんです。挑戦を続けて、どこでストップがかかるのか、それを見極めたいし、そこを目指しています。
それを踏まえた上で、個人としてはやはりものづくりに挑戦したい気持ちがあります。すごく余裕ができたらの話になりますけどね。
世の中にはよく考えたなーっていう物がいっぱいあって、そういうのを見るとちょっと嫉妬しちゃうんです(笑)。
それこそ商売に直結しなくてもいいので、なにか実用的で人の役にたつような、いいものをつくってみたい。ものづくりのフィールドに挑戦していきたいですね。
Information
【アフリカ豆専門店 あおぞら珈琲】
〒320-0838 栃木県宇都宮市吉野1-4-3
mail:aozoracoffee2014@gmail.com
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