徳は心の秩序である
古代ギリシャを代表する哲学者、ソクラテスの言葉を紹介しよう。彼自身は一文字たりとも活字として残していないのだが、弟子のプラトンによってその功績が残されたのは幸いだった。この言葉もプラトンの対話篇『ゴルギアス』の中でソクラテスが語った言葉だ。
ー―徳を積めばいいことがある。
そう教えられて、徳を積む人は多い。
先人たちも、「徳を積め」と口を揃えて言っている。
松下幸之助は、運を良くするためにはどうすればいいかと尋ねられて、こう言ったそうだ。
「徳を積むことや」
一般的には、徳を積むことは人のために尽くすことだと理解している。
しかし、自分を犠牲にしてまで人に尽くすのは、相手にとっても心苦しいはず。
「人のため」が結果的に「自分を満足させるため」になっていては、本末転倒である。
では、徳とはなにか。
ソクタテスは「心の秩序」だと言っている。
秩序とは、物事の条理であり、正しい順序、道筋と辞書にある。
つまり、心が整っている、正しい状態が「徳」であると言っているのだ。
心が整い、正しい状態であれば、自ずと他者への思いやりは生まれるはずだ。
だとすると、「徳がない」というのは「秩序がない」とも言えるだろう。
不徳=無秩序。
「無秩序は浪費からくる」と言ったのは、哲学者、三木清。
彼は、秩序は「生命あらしめる原理」であり「つねに経済的なもの」と説く。
自然界に無駄なものがないのは、秩序があるから。
無駄な浪費をせず、使うべきところに必要なエネルギーを使っているからだ。
徳を積もうと思うなら、まずは自分の心身を整えることから始めてはどうか。
暮らしの見直しは、秩序をもたらし、徳をもたらす。
(190610 第547回)