ものづくりの道も生き方も、こだわりを大切にしながら歩んでいく。
アトリエ正樹 代表 革作家上原正勝さん
2019.06.25
レザーアイテムを取り扱うアトリエ正樹は、多数のイベントやマルシェに出店、店舗に製品を卸したりオーダーメイドを受けることもあります。すべての製作工程を代表の上原さんが手縫い・手作業で行うため、確かな強度と品質が人気です。上原さんは言います。「経営とか売上げ、純粋に数字だけを見るならば常にゆる〜く苦しい状態、でも、これでいいんです」それは“革作家”という人生の軸を持つ上原さんの“こだわり”という、譲ることのできない確かな信念があるからこその言葉でした。
革作家としてのこだわり、生きていく上でのこだわり
現在はイベント出店や店舗への卸し、あとはオーダーメイドが中心で、アトリエ正樹としての店舗は持っていないんですよね。
アトリエはあるんですけど、作業場という感じです。アトリエ正樹としてのホームは必要だと思っていますが、独自の店舗は欲しいと思っています。ただ、それには課題も多くて……。どうしようか考えているところです。
イベント出店をしているとお店はどこですかって聞かれたりもしますからね。
ワークショップも人気だと聞きます。
「自由に楽しく」をモットーにやっているからか、参加されたみなさんは楽しんでくれていますね。暑い季節になるとイベントも少なくなってきて売上も落ちてくるため、ワークショップを多めにやったりします。評判もいいみたいで、こういう需要が増えていることはありがたいことです。
商品のレザーアイテムはすべて上原さんが手縫いで作っていらっしゃるとか。ミシンを使わずに手縫い、そのこだわりには理由があるのですか。
強度のためです。手縫いだと長く使える強い革製品になりますから。革って使い続けるほど、イイ感じになるんです。革が成長する前に壊れてしまうことは絶対に避けたいという想いが強いです。
アトリエ正樹のレザーアイテムは革も厚めで無駄な装飾は一切つけません。装飾をつけるということは穴を開ける部分が増えるということで、やはり強度に関わってきますからね。
金具も基本的に真鍮を使います。真鍮も革と一緒で使い続けると色合いや質感がアンティーク調に変化して、いい雰囲気に成長するんですよ。
自分の作品を魅力を知ってもらうためには長く使い続けてもらわないと、その真価が分かりませんから、強度にはトコトンこだわりたいんです。
革作家として、ものづくりをして生きていくうえで、そういうこだわりは外せないんですね。
昔からレザーアイテムの製作が趣味で、本当に自分が望む物だけを作りたいという気持ちはずっと持ち続けているんです。だからこそ、革作家としてこだわりを捨てずに活動できる今の生き方を選びました。上手くいけば喜びは大きく、失敗すれば自分の責任だから割り切れる。大いに納得ができる分かりやすさが大切です。
僕としては革作家という軸があります。たとえ革作家として食べていけなくなる時が来たとしても、自分がそうあり続けるために生きていくんだと思えばなんだってできる。他の仕事をしながらものづくりを続ければいいだけのことです。
目的のために働くことはできますが、“働くために生きていく”ような生き方は僕にはできませんからね。
自分に合った生き方を選ぶ
革作家の道は小さい頃から目指していたものだったのでしょうか。
あくまでも趣味で、最初からこの道を目指していたわけではありませんでした。そもそもレザーアイテムを作るきっかけはナイフだったんですよ。アウトドアが好きでよくキャンプをしていて、その時に使うナイフが趣味なんです。そのナイフのためのシース(ナイフを収める鞘)を革で自作するんですが、それで革の良さに気がつき始めました。
革作家として活動するまではどのような歩みだったのでしょうか。
一番最初は自衛隊に入りました。その後転々とし、最後に勤めた会社で8年ほど働きましたが、つくづく組織に属して働くことに向いてない性格だと実感しました。人間関係が苦手で、最終的には「もういいや」と思って(笑)。だったら会社を辞めて好きな道で生きていこうと思ったんです。
辞める一年前から準備を始めましたが、正直「これだけで食べていくのは厳しいかもしれない」と感じました。でも自分ひとりだし、アルバイトをすればどうにかなるだろうと思いその道に進みました。
独立をしたばかりの頃に将来像はあったのですか。
先のことを考える余裕もないというか、とにかく目の前のことで精一杯でしたから、最初はほんとに失敗したなって思いました。
失敗というのは会社を辞めたことですか。
いやいや、そこはまったく後悔していません(笑)。
準備期間が1年じゃ短かったということです。2年は欲しかったですね。独立するなら知らなくてはいけないことってたくさんあります。経理関係や税金のこととか。こういうことを含めて仕事ですからね。
それに充分な数の商品を用意できませんでした。残業が激しい会社で、製作している余裕もありませんでした。それらを全部含めて1年の準備期間で整えておくのは厳しいものがありました。
レザーアイテムの製作については、いわゆる師匠にあたる人はいなかったのですか。
経験のある人に話を聞くこともありますが、基本的には独学です。本を見たり、実際に作ってみて、トライアンドエラーの積み重ねですね。
レザーアイテムはファッションとしての要素もあると思いますが、デザイン面はどのように学んでいるのでしょうか。
昔からおしゃれが趣味なんです(笑)。古着屋さん巡りをしたり、そういうアンテナを常に張っていたから、自然と感性が身についているのかもしれません。
アウトドア・ナイフ・シース・ファッションが趣味で、それがレザーアイテムにつながっています。昔からの好きなことが積み重なって今があると感じますね。
自分にとっての生きることの意味、それはものづくりを続けるということ
革作家として活動されてきて今年で9年目になりますが、その中で苦労を感じることはあったのでしょうか。
経営的な数字で言えば独立してから今に至るまで、ゆる〜く苦しい状態なんです(笑)。でもそれを苦労とは思いませんし、逆にたくさんの売上でお金を儲けて、やったー! という感情もありません。むしろお金を儲けすぎることで生まれてくる不自由って絶対にあると思います。
僕には革作家という軸があります。それさえブレなければちょっとやそっとのことで動じることはないんです。だからこのゆる〜く苦しい状態が、自分の思う生き方をまっとうするためにちょうどいいのかなと思うんですよ。
軸がしっかりと根づいているからこその考え方ですね。
最初の方に少し触れましたが、たとえこの道で食べていけなくなったとしても、アトリエ正樹の看板をおろすことはありません。そうなったら昼は他の仕事をすればいいだけですから。
いざというときでも、好きな“ものづくり”は続けていけると思えば、何も怖いものはありません。自分にとってアトリエ正樹のレザーアイテム作りは仕事というよりもライフワークなんです。
お金を儲けるためにものづくりをしてるわけではないから、作品にもトコトンこだわることができるんですね。
「ミシンを踏まないと食っていけないよ」とたくさんの人に言われました。たくさん作ってたくさん売れるんです。もちろんミシン製作の利点は他にもありますが、それでも僕はあくまでも手縫いにこだわる。僕のこだわりを理解してくれる人が買ってくれればそれで満足です。たくさん売れる必要はないんです。
オーダーメイドでも自分のポリシーに反する注文はお断りをしています。そうすると当然、怒ってしまう方もいらっしゃいますが、それでも、ものづくりに関しては譲れないものがあるんです。
ブランドが有名になってくると、例えば海外で工場生産し国内で売るなど、そいういった類の話しをもちかけられることもあると聞きます。
確かにそういうお話がきたこともありましたけど、それをやろうとは思いませんでした。自分が手を動かして作っていないものを、アトリエ正樹の商品として売るのは考えられません。いくらお金が儲かるとしても、それは自分が望む生き方ではないですね。ものづくりの作家なり職人っていう人は、やっぱり現場に出ていたい、作っていたいっていう欲求があるんだと思いますよ。
自分が納得をするかどうか
製作のときに気をつけていることはどんなところですか。
作る前からお手本を見ないようにすることですね。最初は見ながら作っていましたが、どうしてもそのイメージが頭に残って、ひどいときはそのままお手本が出来てしまったり(笑)。だからまずは実際に作り始めてから、「この部分は他ではどうやってるのかな」って、参考程度に見るようにしています。
創作意欲が特に掻き立てられるときはどんな時でしょうか。
新作の見本をつくるときとか、季節物をつくるときなど、新しいものにチャレンジするときは意欲が高まりますね。それと金具を見たときです。金具から作りたいものが浮かんでくるときがあります。どういう組み合わせにしようとか、そういうことを想像するのが楽しいんです。
あとはジャンルを問わず、それぞれの分野でこだわりを持って頑張っている人を見たときですね。それが一番の原動力になります。
先程オーダーメイドでも場合によっては注文をお断りすることがあるとお聞きしましたが、作り手としてのこだわりをもつ一方で、売り方にもなにかこだわりはありますか。
売れ筋商品だからとか、流行っているからそれを作ることはしません。あくまでも自分が作りたいかどうかです。逆を言えば、自分がつくりたいものなら何でもつくります。売れる売れないを基準にしていないんです。
馬蹄形のコインケースを見れば、作った職人さんの腕がだいたい分かるってよく言われますけど、僕は一度も作ったことないんですよ。自分とお客様が納得するものが出来上がるかどうかが重要なので、一般的な指標には興味がないんです。あくまでも自分のものさしで物事を図りますから。
“革作家”という根っこの上で自分の生き方を組み立てているんですね。
人生そんなにガチガチに考えなくてもなんとかなるもんだなと、実際に会社を辞めてこの道に進んで、改めて思いました。自分に確かな軸があれば、それがお金になろうがなるまいが、何をやっても楽しいじゃないかって。
だから、ものづくりだけで食べていけなくなって、他の仕事をすることになっても平気なんです。何度も言いますが、そうなってもアトリエ正樹の看板は絶対に下ろしません。そのとき僕はこう言いますよ。「アトリエ正樹の代表をやっています。今はその看板を守るために別の仕事をやっていますけど」って。
だって看板を下ろす方がかっこ悪いですよ。それなら生きてさえいればいいのかい、自分の軸はどこにあるんだいって思いますから。
自分の中にある本当に大切なものを守りながら、これからもアトリエ正樹の革作家として、自分の望むように歩んで行きたいですね。
Information
【アトリエ正樹】
TEL.090-9814-7375
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