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紺碧の将
Interview Blog vol.82

革を通して、世の中を考えてみる

「と革」ディレクター髙見澤篤さん

2019.08.10

料理人が集まるかっぱ橋道具街からほど近い路地裏にある、小さなギャラリーショップ「と革」。店主でありディレクターの髙見澤篤さんが作る革製品は害獣駆除などで捕獲された鹿や猪、熊などの革を使ったもので、ひとつひとつにコンセプトとドラマがあります。動物の皮や角など、本来であれば捨てられてしまう部分であっても、命を余すところなく使いきってあげたいと言い、「ジビエ革」と名付けています。国内外でファンを獲得し、現在、世界の30店舗と取引するまでに成長しています。

革と革にまつわるモノを扱う店

知人から高見澤さんが作られた財布を見せてもらい、そのコンセプトを聞いて驚きました。長財布だったのですが、開いた状態で両手を合わせるとコの字型の金具の枠ができて、「いただきます」という心を表しているのだと聞きました。

 それは「ココロシリーズ」のひとつですね。フレームの型がカタカナの「コ」、裏返すと「コ」、開くと「ロ」が現れる。「ココロ」という名の革製品です。

 留め金を外し、開き、閉じる時、自然と手を合わせる形になります。日々の所作において、モノに感謝する、いただく命に感謝して「ココロ」を寄せる、そんな意味を込めています。長財布の他に、名刺ケースや小銭入れもあります。僕は商品を作るとき、まずコンセプトから考えます。コンセプトをどう伝えるかがデザイナーの仕事ですから。

「と革」という店名も面白いですね。これはどういう意味ですか。

「革と革にまつわるモノを取り扱う店」という意味です。「〜と革」。革製品は食と密接に関係していると思っています。皮が革製品になるまでにはたくさんのストーリーがある。そのことにスポットを当てたお店です。

こちらの住所も不思議なつながりがあったとうかがいました。このお店はいつオープンされたのですか。

 昨年の2018年7月14日です。ここは、かっぱ橋道具街がすぐ近くにあり、料理人が集まってくる場所で、しかも、番地が2丁目29番8号、「2(次)、29(肉)8(屋)」と、「お肉を食べた後のもの=皮」なので、語呂合わせにもなっています。物件を探していたら、たまたまここに巡り合いました。

 ブランド名の「Six coup de foudre(シス・クー・ド・フードル)」もフランス語で「第六感でひとめぼれ」という意味に加え、シスは「死す」、クードは「喰う」、フードルは「フード(食べ物)」=「皮は食べた後の副産物の意」ともじっています。彼らが生きてきた証である角や皮などを使っていますから、ブランド名にはピッタリだと思いました。ちょうどその頃、鹿の角をバッグの持ち手に使っていたことも、命名につながった理由のひとつです。

気配を消せる男のふしぎな引力

髙見澤さんはご出身はどちらですか。

 長野県です。高校生の頃ファッションに魅せられて、東京のデザイン学校に進学しました。特にクリスチャン・ディオールのデザイナー、ジョン・ガリアーノのデザインが好きで、彼のコレクションにどうしても行きたくて、チケットがないのにこっそり潜り込んだことも何度もあります。

そんなに簡単にコレクションに潜り込むことができるのですか。

 ふつうは無理だと思います(笑)。だけど、僕はなぜか、運良くスタッフにも気付かれず、毎回うまく潜り込めたんです。髪は派手な色に染めていたし、見た目は普通に歩いていたら目立つような格好だったんですけどね。そしたら、ある人から「君は気配を消せるね」と言われて、「そうだったのか」と自分でもびっくりしました。

その人は高見澤さんのことに気づいていたんですね。

 そうですね。ファッションジャーナリストの織田晃さんでした。声をかけられて、もぐりだと答えると、そう言われました。その後、織田さんから「チケットをあげる代わりに僕の仕事を手伝わないか」と誘われました。願ってもないことですから、それから織田さんの行くところはどこでも一緒に着いて行き、パリのコレクションにも同行させてもらいました。仕事は主に、ストリートスナップを撮ることでした。

学生時代のことですよね。卒業後も引き続き織田さんの手伝いを?

 はい、しばらくは。もともと織田さんの手伝いをする以前からスタイリストのアシスタントもしていて、学生とスタイリストアシスタント、織田さんの手伝いと、3つを並行してやっていました。当時はファッションの世界にどっぷり浸かっていましたね。独立してフリーのスタイリストになった後は、舞台衣装なども作っていました。

そのときのつながりで、ガンズ・アンド・ローゼズというロックバンドのコンサート衣装を長年作らせてもらっています。もう10年くらいのつきあいになるでしょうか。来日すると必ず連絡があります。

世界的に名前を知られた人からもオーダーが入るのですね。

 最近ではC・W・ニコルさんから鹿革のベストの注文があり、お作りしました。

そもそもなぜ、革製品を作るようになったのですか。

 たまたま学生時代の頃に作った革のバッグを下げて、下北沢にあるお店に入ったら、オーナーさんから「そのバッグいいですね」と言われたんです。どこで買ったのかと訊かれて自分で作ったと答えると、「店に置きたいからいくつか作ってほしい」と頼まれました。一週間後に作って持っていくと、すぐに完売したと連絡が来て、追加で商品を作ることになって。

どんなバッグだったのですか。

 ショルダー部分が20センチほどの幅で、袋部分もたっぷり入るショルダーバッグです。デザイン学校に通っていた頃は荷物が多くて、市販のバッグではショルダー部分が肩に食い込んで痛かったんです。だから、ショルダーが肩に食い込まないようなバッグを作りました。

やむにやまれず作ったバッグだったのですね。それが数年後、革製品を作るきっかけになったと。

 はい。その後他のお店でも卸をするようになって…。

 あるとき、納品する為にお店に行き、ウィンドウのディスプレイに僕のバッグが飾っているのを眺めていたら、女性のお客さまがお店に入ってきたんです。そして、すぐバッグを手に取って鏡の前で確かめると、値段も見ずにレジへ持って行ったんです。「これって、ひとめぼれじゃないか」と。それが2006年のことで、「Six coup de foudre(シス・クー・ド・フードル)」というブランド名になったきっかけです。

ブランドを立ち上げたのはいつですか。

 2006年です。下北沢のお店がオリジナルの洋服を作って売り出すようになり、「こんどパリの展示会に出展するから一緒にどうか」と誘われて出展したのですが、海外でも好評で。それがあってブランドを立ち上げることにしたのです。

仕事の意義を見出したジビエ革

高見澤さんの革製品の特徴のひとつは、ジビエの革を使った商品ですね。全体のうち、どれくらいがジビエ革製品ですか。

 6割くらいです。こういった革を取り扱うようになったのは10年以上も前になりますが、北海道の猟師さんからバックの持ち手を製作するために鹿の角を仕入れるようになり、害獣駆除した動物を破棄していると聞いてからです。それでは動物がかわいそうだと思い、棄てるなら送ってほしいと頼みました。「これ使えますか?」と、一緒に熊の手や頭が送られてくることもありました。棄てることはできないのでネックレスにしたり、頭は煮出して骨だけにしてディスプレイにしました。熊の生首が送られてきたときは、さすがにどうしようかと思いましたね。とりあえず保存しようと、自宅の冷凍庫に入れておいたのを妻に見つかり、すごく叱られました(笑)。

でしょうね(笑)。猟師さんから皮を送ってもらったあとは、どうするのですか。

 懇意にしている姫路のタンナー(皮革加工生産者)さんに鞣しをお願いしています。そこは、僕が革でモノづくりを始めたときからお世話になっているところです。

 本来、革は問屋から買うもので、タンナーさんは問屋に卸して個人的な売買は通常請け負わないのですが、駆け出しの頃、僕は何も知らずに連絡してしまったんです。そのときに出会った方が本当に親切で、革の開発者だったこともあり、皮の鞣しを見学させてくれました。以来、いろいろ協力していただいています。

ジビエの肉は最近よく知られていますが、ジビエの皮まで使うという発想はなかなかないと思います。

 農林水産省が国産ジビエの認証制度を設けてから、ジビエという言葉が一般に浸透しましたね。ジビエ革のことも知っていただけるきっかけにもなっています。

 ただ、これらの革を使い始めてわかったのですが、たとえば鹿の場合、害獣駆除された鹿の頭数全体のうち、食肉になるのが2割、その他は多少ペットフードになるものはあっても、7割以上が廃棄処分されます。そもそも駆除が目的ですからね。革製品になるのは、頭数全体のわずか0.2%だけです。ですので、「ジビエ革」を通じて、現状も知ってもらうきっかけになれば嬉しいですし、革製品を購入する際の選択肢の1つになればとの想いで革製品を作っています。

「ジビエ革」という言葉は、高見澤さんが命名したのですか。

 はい。元々フランスでジビエ料理を食すのが好きで。ジビエという言葉を害獣駆除される動物たちに使おうと思いました。革ってどうして出来るのかと考えたら、お肉を食べるから皮が出るんですよね。食べた後のものも棄てるのではなく、何かに活用することで彼らの命も活かされる。命を大切にする、循環するって、そういうことだと思います。

人の目が行き届かないところに光をあてる

高見澤さんの想いは、ブランド名や商品のコンセプトに表れています。

 それを説明するのも仕事のひとつだと思っています。お客さまに商品を見ていただき、コンセプトを伝える。特に海外ではコンセプトを説明するのは重要です。命を余すことなくいただくという考え方は、海外でも非常に興味を持って下さいます。

商品を作る上では動物の革ですから、当然それぞれ違いはありますよね。

 もちろんです。種類はもちろん、育った環境でもまったく違います。家畜でも放牧したものと、室内で囲いの中で育ったものは違います。放牧のものは傷が多く、囲いの中で育った動物の皮は傷が少ない。飼育環境も枝分かれしてそれぞれに特徴があります。ですから、家畜といっても一概に言えません。ジビエの革は野生のものですから、より生傷やダニの痕が露骨にわかります。

そういう違いはあっても、高見澤さんが家畜の革もジビエ革も同じように扱うのは、やはり、命をいただくということにおいては同じだと考えるからでしょうか。

 ジビエだからいいとか、家畜だからいいというのではなく、「こういう革もありますよ」と提案するのが僕の役目だと思っています。僕のブランドのコンセプトは「革を通じて世の中を考える」ということです。提案するときにジビエの革というのはどういう理由でこうなっているのかをお伝えすることは重要なポイントです。ですから、実際に動物が育っている環境などを知る為に国内外問わず現地に足を運びます。お客さまに見比べていただいて、そういう違いも知っていただけたらと考えています。

ジビエ革には、家畜の革とはまた違った味わいがありますね。

 そうですね。ジビエ革にはジビエ革の味わいがあるし、家畜の革には家畜の革の味わいがあります。野菜だってそうですよね。スーパーにあるような綺麗に整ったものもあれば、自家菜園の野菜のように、曲がったり大きくなりすぎたりするものもある。そういうものこそ自然で美味しかったりするんですけど、どちらを好むかは人それぞれですよね。だから革も、傷だらけだったり穴が空いているものが良いという人だっていると思いますし、そういうことが多様性なんだと思います。その多様性を知ってもらうための選択肢の一つになればいいなと思っています。

高見澤さんの革製品を通して、ジビエや環境問題に意識を向けてくれる人がますます増えてくれるといいですね。今後は何か新しい展開を考えていらっしゃいますか。

 実は昨年の1年間、養護学校でモノづくりの講師を務めたのですが、そのことがあって、他の養護学校の先生からモノづくりの手伝いをさせてもらえないかとお話がありました。それで、今、少しずつ生徒さんたちができることをお願いしています。もう少しきちんとしたものが出来れば、彼らが作った証として、専用の印を商品タグに押してもらおうかと考えているところです。彼らにとってモチベーションは重要ですから、僕のお店や卸先のショップなどでその印を見かけたとき、「これは自分が作ったんだ」と誇らしく思えるような、モチベーションにつながるものになったらいいな、と。

 僕は何も特別なことをしているわけでもないし、そういうことをしようとも思っているわけではなくて、ただ、淡々と日常を過ごす中で疑問に思ったりつながったりすることが、社会のためになればいいなと思っています。より良い未来を子供たちに残せたらいいですよね。

 

Information

【「と革」TO-KAWA】

〒111-0036 東京都台東区東区松が谷2丁目29番8号

ベビーマンション105号

TEL : 070-5589-5934

www.to-kawa.com

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