あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか
むずかしい活字に疲れたとき、それでも何かを読みたいとき、手にするのは絵本。子供向けのもの、大人向けのもの、どれを手にとっても安らかな気持ちになる。とりわけ、やわらかい色彩の絵本はながめているだけでほっとする。長田弘氏の詩と伊勢英子さんの絵のコラボレーション『最初の質問』は、お気に入りの一冊。開くたびにはっとさせられる。
めまぐるしく移り変わる世の中で、疲れ果ててしまった人がたくさんいる。
何が真実で、何が虚偽なのか。
あふれかえる情報の波に飲まれ、自ら浮き上がることができないでいる。
顔を上げれば、大きな空があるというのに、
うつむいて、小さな虚空をさまよっている。
真実は目の前にあるというのに、
はるか遠くの、あるかなきかの架空に身を置いている。
長田氏からの質問。
今日、あなたは空を見上げましたか。
空は遠かったですか、近かったですか。
雲はどんなかたちをしていましたか。
風はどんな匂いがしましたか。
あなたにとって、
いい一日とはどんな一日ですか。
「ありがとう」という言葉を、
今日、あなたは口にしましたか。
「うつくしい」と、
あなたがためらわず言えるものは何ですか。
好きな花を七つ、あげられますか。
あなたにとって
「わたしたち」というのは、誰ですか。
問いと答えと、
いまあなたにとって必要なのはどっちですか。
いちばんしたいことは何ですか。
人生の材料は何だとおもいますか。
……。
心がほんとうに求めているものを、機械は知らない。
知っているのは、空や雲や風や草木と同じ、自然の一部であるあなただけ。
(190903 第572回)