メンターとしての中国古典

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紺碧の将

上善は水の若し

2019.10.15

 この有名な言葉は「老子」の一節で、「最上の善とは、水のようなものである」という意味です。善とは道徳的に正しいことをいい、徳と同義語と考えても良いのでしょう。

 相次ぐ台風による甚大な被害で、水の脅威を思い知らされていますが、なぜ水が最上の善と言えるのかを考えてみたいと思います。

 

水の特性

 

 水には次のような特性があります。

1)水は命の源

 地球に水があることで、人間のみならず動植物の命が育まれています。

成人の体は65%が水でできているそうです。水がなければ体の細胞も血液も維持することができません。

 

2)水は変幻自在

 液体である水は自由に形を変えることができ、どんな狭いところにも入り込んで行きます。また、温度によって液体、固体、気体と形状を変えます。しかし、水の物性はH2Oで、本質には変化はありません。

 

3)水はピュア

 水には純粋で澄んでいます。中性で毒性がなく、物を洗浄することができます。顔や手を洗う、食べ物や食器を洗うなど、汚れたものを洗い流し清潔にする作用があります。清流や浄めの水と言われるように、人の心をも洗う効果があります。

 

4)水は集まると大きな力を持つ

 人に優しく命の源である水も、たくさん集まると岩をも砕くほどの大きな破壊力を持ちます。時には洪水や津波などで、一瞬にして人の平穏な生活や命までも奪うほど大きな力を持ちます。

 

5)水は低いところに流れる

 液体としての水は重力に従い、必ず低いところに流れます。山に降った一滴の雨が集まって川を作り、そして海に至ります。その過程で時間をかけて、土地を侵食し、少しずつ地形を変えて行きます。

 

 柔軟で優しく時に大きな牙を剥く、この多様性と普遍性が水の特徴と言えるでしょう。

 

柔軟性は若さの証明

 

 人は生まれてから上を見て努力し成長して行きます。若い頃は頭も体も柔軟で、素直にいろんなこと学び経験し能力的も人間的にも成長して生きます。しかし、たくさんのものを身につけると現状に満足し、手に入れたものを守ろう保守的になって行きます。

 人は歳とともに柔軟性を失い硬直化して行きます。体のみならず思考の硬直化は、老化現象そのものです。生涯現役の時代、社会に適合していつまでも元気に働くためには、柔軟性が必要不可欠です。

 しかし、柔軟性の欠如が定年を迎えた人の再就職を難しくしています。これまで身につけた地位や知識に固執し、頭でわかっても心と体が環境の変化を受け入れられないからです。しかし、こんな問題の予兆はもっと早い時期から出ています。例えば、35歳頃から柔軟性を維持し若々しい人と保守的で硬直化が顕著な人との差が大きく出てきます。つまり、定年が人生の分水嶺ではなく、35歳から40歳の頃が本当の分水嶺だと思うのです。

 

過去を水に流す

 

 長い人生を考えると、どこかのタイミングで働き方や生活、そして生き方をリセットして行くことが大事なのでしょう。定年まで自分の人生を会社に委ねてしまうのはかなり大きなリスクです。会社は死ぬまで面倒を見てくれるわけではありませんから、リスクマネジメントが必要です。

 生活を守るという意味でのリスクマネジメントは、健康管理や貯蓄が肝要です。しかし、同時に大切なリスクマネジメントは、過去を水に流すことではないでしょうか。

 水に流すと言うと、過去の失敗や人への恨みなどを想像しますが、大切なのは常識や過去の成功体験です。例えば、昭和の時代に身につけた常識や考え方、社会的な地位や組織内での序列からくる傲慢さ、陳腐化した知識スキルや習慣などです。最近問題になっている各種ハラスメントも、昭和の時代の慣習を引きずっているからではないでしょうか。

 赤ちゃんや幼児のように先入観を持たず、純粋無垢で偏らない素直な心に戻ることは難しいものがあります。しかし、自分の過去の成功体験を水に流し、柔軟性と謙虚さを取り戻すことが、いい人生につながるのだと思います。

 

水が教える「いい生き方」

 

 水は無色透明(実際は少し青い)で自ら主張はしませんが、その持ち味を活かして、地球の営みに貢献する必要不可欠な存在になっています。人間も自然の一部であり、水に倣って「柔軟でしなやかな生き方」を老子は推奨しています。

 

「上善(じょうぜん)は水の若(ごと)し」には続きがあります。

 

 水は善(よ)く万物を利して而(しか)も争わず、衆人(しゅうじん)の悪(にく)む所に処(お)る。故(ゆえ)に道に幾(ちか)し。居(きょ)には地が善く、心には淵(えん)が善く、与(まじわり)には仁が善く、言には信が善く、正(政)には治が善く、事には能が善く、動には時が善し。それ唯(た)だ争わず、故に尤(とが)め無し。

 

 その意味は、水は万物に恵みを与えながら万物と争わず、自然と低い場所に集まる。その有りようは「道(万物の根源)」に近いものだ。住居は地面の上が善く、心は奥深いのが善く、人づき合いは情け深いのが善く、言葉には信義があるのが善く、政治は治まるのが善く、事業は能率が高いのが善く、行動は時節に適っているのが善い。水のように争わないでおれば、間違いなど起こらないものだ。

 

「上善は水の若し」を行動指針に

 

 老子に学びこんな行動指針を作ってみました。

「水をモデルにして生きよ!」

 具体的には、

1)周囲の人への貢献を第一に考えよ!(利他の精神)

2)人と比べず争わず、傲慢にならず、謙虚であれ!

3)住む場所は地盤の安定したところにせよ!

4)教養を身につけ人の心の奥深いところを理解できる人間なれ!

5)弱い人や困っている人を慈しむ心(儒教では「仁」)を持ちなさい!

6)嘘をつくな。言動を一致を心がけよ!

7)政治(マネジメント)は私欲でなく資源の最大活用を心がけよ!

8)仕事はムリ・ムラ・ムダを排除し、生産性を高めよ!

9)機をみて敏。事を起こすには何事も(スピードより)タイミングが大切!

10)(人と比べる相対評価でなく)、自己研鑽に専心し絶対評価で生きよ!

 

 感想やご意見を頂ければ幸いです。

 

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