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紺碧の将

深くてゆったりとした呼吸が、「息の長い」人間にしてくれる

安田登

 下掛宝生流ワキ方を務める能楽師、安田登氏の言葉をふたたび。和の所作に秘められた身体能力の向上を細やかに解説した著書『身体能力を高める「和の所作」』からの抜粋である。かつての日本人が、なぜあれほどに強靭な心身であったかを紐解くと、そこには体の使い方、「所作」というものが根底にあった。その所作にもっとも深くかかわるのが「呼吸」である。
 
 ことわざや慣用句は、多くの「生きる」ヒントが隠されている。
   安田氏の解説を少しかいつまんで説明しよう。
 
 たとえば「息が長い」という言葉。
 これは、現役を長く続けられる人に向けて使われている。
 が、単なる比喩ではないようなのだ。
 
 長く現役で活躍するプロスポーツ選手をはじめ、実業家や武道家、伝統芸能、僧侶など、長命な人たちに共通するどっしりした姿は、そのまま心の表れだろう。
 そこには落ち着いた、深い呼吸が関係していると思われる。
 
 実際に武道や伝統芸能を嗜んでいる人ならわかるはずだ。
 呼吸が深く、整っていなければうまくいかないことを。
 
 安田氏によると、
 息は「いき」と訓じられ、その「いき」は「生き」に通じるのだとか。
 つまり、
 日本人は「呼吸」そのものを「生きる」こと、生命活動と考えていたらしい。
 それゆえ、
 長い息は「ながいき=長生き」に通じると言われていたと。
 

 では、現代人はどうか。

「息が短い」と感じないだろうか。
 
 物事の効率化、スピード展開を鑑みても、「息の短い」ものがあまりに多い。
 それはすなわち、息が短い、呼吸が浅い人が増えているということ。

 キレる人や短気な人も、呼吸が浅いことが証明されているという。

 

 寿命が延びて、長生きする人は多くなった。
 だが、はたして現役の寿命はどうか。
 
「『息がつまる』という言葉は比喩でもなんでもなく、そんな状況に置かれた人間は、実際に息がつまって呼吸が浅くなっているのです。
……呼吸が浅くなると、肩や首、背中の筋肉が緊張します。すると『あの人といると肩がこる』となるわけです」
 
 呼吸が浅いということは、取り入れる酸素の量が少なくなる。
 当然、脳に回る酸素も足りなくなる。
 その結果、思考能力が鈍り、不要な情報を取り入れたり、不要なモノを買ってしまうのだと、安田氏は言う。
 
 よく生きるために、いい呼吸をしよう。
 長く現役で生きたいなら、深く長い息をしよう。
 一度、呼吸をリセットして。

 

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(191116 第592回)

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