本がどれほど有益かは読者の感受性しだい
ヘンリー・ソローの師であり友人であったラルフ・ウォルドー・エマーソン。彼のエッセイ『自己信頼』は自己啓発本としても人気だが、そもそもエマーソンのいう自己信頼とは「個人の無限性」、すなわち真理は己の内にあるということで、多数派の意見に従うのではなく、自分で考え、主体的に生きることを説いている。
「本を読もうと思うけれど、どんな本を読んでいいかわからない」という人には、
「とにかく良い本を読んだ方がいい」と、伝えたほうがいい。
「たとえば、こういう本を」と手渡したり、情報を提供したり。
ただし、同じように良い本だと思ってくれるかどうかはわからない。
感じ方や捉え方は人それぞれだから。
本屋をのぞくと、あまりの数の多さに目的を忘れそうになることがある。
本離れやデジタル化が進んでいるとは思えないほど次々と新刊が並び、その多くは同じようなタイトルで内容もなんとなく想像できるものばかりで、この中のどれだけの数が読み継がれるのだろうと、余計な心配までしてしまう。
本に限らず、情報は大海のごとく世の中にあふれている。
その情報すべてが自分にとって有益であるはずもなく、ほんの一握りで事足りるのは薄々だれもが感じているはずだ。
ほんの一握りの有益な情報を得るために、いつまでも大海を泳いでいては身がもたない。海底に沈んだ宝石を探すのはあまりに至難である。
それよりもむしろ、手にした石ころを自分の手で宝石のごとく磨き輝かせて特別なものにしてしまったほうが、何倍も何十倍も愛着がもてるのではないか。
磨くうちに新しい発見もあるだろう。
石のほうから語りかけてくるかもしれない。
すべては自分の感じ方しだいである。
エマーソンのいう感受性および自己信頼とはそういうことだ。
「本はよい読者を得て良書となる。
よいどんな本のなかにも、ほかの人にはわからないけれど、自分には確かに聞こえる秘密や内緒話のような特別の一文を見つける。本がどれほど有益かは読者の感受性しだい。本のなかに、埋もれた宝のように眠っている深遠な考えや熱い情熱は、それに値する頭と心があって、はじめて発見される」
その感受性をどうやって身につけるのかって?
―― ダメなことの一切を時代のせいにはするな。
…自分の感受性くらい、自分で守れ。ばかものよ。
と、詩人の茨木のり子は言い遺してますが?
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今回は「面映(おもは)ゆい」を紹介。なんとも照れくさい、気恥ずかしい。鏡を見ずとも頬の赤らみがわかる。そんな様子が「面映ゆい」です。続きは……。
(201126 第683回)