日本人として覚えておきたい ちからのある言葉【格言・名言】
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紺碧の将

自分にないものを、無理になんとかしようとしても、ロクなことにはなりません

熊谷守一

〝画壇の仙人〟と呼ばれた画家、「モリ」こと熊谷守一の言葉である。「これ以上人が来てくれてはこまる」と言って文化勲章の内示を辞退するほど、モリカズの元にはよくよく人が集まってきたという。人だけでなく、鳥も虫も動物も、命あるものはモリカズに引き寄せられていたようだ。これは著書『へたも絵のうち』にある言葉。
 
 研究所の書生に、いい絵の描き方を訪ねられたモリカズは、こう応えた。
 
「下品な人は下品な絵をかきなさい、ばかな人はばかな絵をかきなさい、下手な人は下手な絵をかきなさい」
 
 ―― 自分を出して自分を生かすしかない。
 ―― 自分にないものを、無理になんとかしようとしても、ロクなことはない。
 ―― 下手な絵も認めよ。
 
 画壇の仙人は、自分を生かす自然な絵を描きなさいと、ありのままの姿を賞賛する。
 
 ときに人は、等身大の自分を忘れがちだ。
 ちょっと背伸びするくらいなら、健やかな成長にもつながるだろうが、背伸びしても届かないものを無理やり手にしようとあれこれ策を講じても、土台がなってなければ、ぐらつく足元から崩れてしまうのは目に見えている。
 それなら頑丈な土台を築き、その上に立ったほうが安全。
 自ら築いた土台であれば、強度の度合いもわかるだろうし、どこが弱く、どこが強いかも自覚できる。
 そうして出来上がった土台に立ったとき、積み上げるときに必要とした知識や技術、知恵や体力が身についていることを知るだろう。
 
 自分にないものを取り出すことはできない。
 できるのは、あるものを出すだけ。
 いまの自分がもっているもので、なんとかする。
 いまこのときにできることは、それしかない。

 

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(210310 第707回)

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