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紺碧の将

発信する力

2021.06.04

 

 

 

 『パレスチナ・ガザの画家たち展』のDMが届いたのは4月の中旬ごろであった。会場である「ギャラリー・イン・ザ・ブルー」は、JR宇都宮駅から数分のところにあって、現代アートの発信基地として、若手作家を育てる場所として、オープンしてからもう30年近くになると思う。私はこのギャラリーのオーナーであり画家として活躍する青木俊子さんとは親しみを込めてお付き合いを重ねてきた。

 時々は私の出番もあって、インテリアやビーズ作品の発表の場として提供してくれて守備範囲も広い。ところが今回の企画展はいつにも増して異色である。パレスチナ・ガザの画家たちの絵が本当に飾られているのであろうか? その疑問に答えるべき講演会も同時に開催されたのである。

 世の中のコロナ自粛ムードは栃木県も例外ではなく、このような中で会場を借り、人を集めるという行動は果たして適切なのであろうか。青木さんはしばし悩んだそうだが、会場と交渉をし、三密をさける工夫と、それ以上に人を動員するための呼びかけは微妙なものがある。私でさえ、友達は誘えないな、という消極的な思いがあったのだから。

 このとんでもない企画の後ろにはやはり仕掛け人がいた。青木さんとタッグを組んだ洋画家、上條陽子氏の存在が全てであった。彼女は洋画界では知る人ぞ知る<安井賞>受賞の女流画家であり、今日に至る様々な活動はその都度注目を集めてきた。最近の活動は、といってももう20年以上も遡ることになるが、毎年レバノンに赴き、子供たちに絵を教えてきているということを私は知った。

 きっかけは“ハート&プロジェクト”の一員としてこの地に立ち寄った上條さんが、現地で働く女医さんに「ここに住んでいる子供たちに絵を教えてくれないか」と頼まれたことだった。

 当時中東のレバノンはパレスチナ難民キャンプが11か所あって、日本のニュースでも時々内戦の模様が報じられていたとはいえ、遠い国の出来事として私たちは見過ごしてきた。上條さんは絵具やクレヨンをかき集め現地に飛び、その後は子供たちとのお絵描き教室が10年にも渡って続けられたのである。

 今回の企画展は、子供たちの絵ではなく、画家として実際にガザで活動している3人の男性画家の絵が日本へ持ち込まれた。出入国が厳しく限られた中でどのようにして絵が運び出されたのであろう。そのスリル満点の様子を講演会の中で、ガザの画家たちの日常を伝え、上映とトークを交えて私たちに訴えかけた。この企画は宇都宮から次回は北海道へ巡回するそうだ。

 画廊に飾られた3人の画家の油絵は、それぞれにテーマがあって色使いは非常に明るい。監視されている恐ろしさが感じられないのはとても不思議、過酷な日常であることは間違いないのに普通に流れている生活がある。だから生きること、自由であることは何かを強く感じさせられる。

 テレビに映るガザの様子はいつも子供の姿が多いと感じていたが、実際人口の過半数が15歳以下の子供たちであるとのこと。何故? 内戦で大人は死んでしまったの? 宗教や経済や他国の思惑が複雑に絡むこの地域の情勢を、子供たちは何も知らないし、分らないであろう。

 5月に入って何の前触れもなく、ヨルダン川西岸地区・ガザ地区とイスラエルとの内戦が勃発した。「ああ、なにも変わってはいないのだな」と無能な私はがっくりとうなだれるだけである。停戦にまでこぎつけるのが精いっぱいで、問題は先延ばし、いつかはまた小競り合いが起きて内乱の火種となっていくことは誰にでもわかる。

 戦乱の中で育った子供たちは、その風景しか知らない。憎しみや悲しみの連鎖はどこかで断ち切らねばと思う。でもそれがいかに難しいことなのか、私たち日本人にはとてもとても理解できないことなのだ。きっと旧約聖書の時代まで事実を追っかけて行かねばならないだろう。そして私たちは結局のところ頭が混乱してしまって、ギブアップするしかないのだろうか。

 

お知らせです。

 

NHK日曜美術館放映のお知らせ

『壁を越えるパレスチナ・ガザのアーテイストと上條陽子』

66日(日)NHKEテレ  9:009:45

613日(日)再放送 NHKEテレ  20:0020:45

 

 

矢車菊

写真/大橋健志

 

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