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紺碧の将

「絶対色感」ってあるの?

2022.02.18

 2月は色も無く静かな季節、でもその冷たい空気の中に、私はわずかに春の匂いを感じ取っている。待つことの希望に溢れた2月である。

 いつの間にか私の選ぶビーズの色も、ピンク、黄色、白、うすグリーンと春色が勢ぞろいする。少し前までは、焦げ金や深い緑に心惹かれ、きれいな色には食指が動かなかったのに、季節が動くということはこのように私の心も動かし、変化させてくれる。春色、夏色、秋色と季節の前倒しをしながら、私の中で色のチェンジングが行われている。

 今年は何故か桃や桜の花を通り越して、カーネーションに挑戦だ。まだ先の母の日を目指してという心づもりはない。ただ春色のビーズを眺めていたら無性にカーネーションを作ってみたくなった私の気まぐれである。でも作り手としてはそう思った時が吉日で、「久しぶりね、今年のあなたたちはどんな風になりたい? きっと美人さん揃いよ」と、私はもう作る気満々である。

 3本、4本、5本と調子よく進んだつもりだったが、ふっと私の進む手が止まってしまった。「何か違うなぁ、あまりにも色がきれいすぎて、平凡になったみたい」。本数が増すごとに思いとはどんどん離れていくようで、袋小路に入り込んでしまう。物作りにはこういうことがついてまわる。決してスムーズに事を運ばせてはくれない。手はいくらでも動き、常にスタンバイしているのに私の脳が指令を出せないでいる。

 無数にある色の中で、どれを選んでも組み合わせても自由、どうぞ私を選んで! とビーズたちはささやいているのに……、何十年も私は懲りもせず色の持つ魔法に悩みつづけている。

 

 音楽の世界には「絶対音感」というものがあって、音を聞いただけで音の高さを判別できる特別な才能を持った人がいるという。それと対で言われる言葉「相対音感」とは、基準音と比較して次の音の高さを正確に判別できる能力のことだそうである。

 それならば色の世界にも「絶対色感」と「相対色感」とが存在してもおかしくはないと思った。自慢するわけじゃないけれど、私は何十年もビーズというガラスの素材を見つめ、色の坩堝にはまりこんでいるのだから、相当高度な相対色感を持っているのではないか、と自分に自信を持たせてみる。

 色の世界はそんなに正確さを要求してはいない。隣同士、重なる色同士が相性が良ければひとまずは良しとしよう。そこから先は作り手の個性だから、大いに試行錯誤はした方がいい。でもたまにはドンピシャリと我が気持ちの収まる取り合わせに遭遇したいものと切望する。それが捕色関係にある大胆な組み合わせが功を奏した時などは、気分もハイになる。これがもしかしたら絶対色感かな! と舞い上がってみたりする。

 色は私たちの五感を通して、豊かな情感をもたらしてくれる。その最先端にあるのは、やはりファッションの世界であろう。「〇〇は色の魔術師」とか「〇〇の黄色」とかそのブランドのイメージを彷彿させるキャッチコピーは枚挙にいとまがない。

 私はビーズというガラス素材にどうして惹かれているのであろうか。たまたま形となってそこに在る物の後ろに、ある物語が立ち上ってくるような、そんな摩訶不思議なビーズフラワーに一度でいいから巡り合いたいものである。

 

写真/大橋健志

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