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紺碧の将

アンの小径

2022.06.09

 インテリアを構築していく中で、額装(絵、写真、版画など)、時計、鏡などのアイテムはとても大切な要素である。取り分け無表情な壁、壁面にどういった魔法をかけるか、それは思案のしどころであり、はまると一筋縄ではいかない伏線が絡んできて頭を抱え込むこともある。

 部屋の用途、壁面の大きさや色、光の差し方、人の目線等々いくつかのポイントをクリアした時に、その場所はその人にとっての居心地のいい空間になるであろう。プラス家族にとってはどうかな、という配慮もあるわけで一番大切なのは家の中にもTPOがあるということかもしれない。

 

 昔、とても可愛くてエレガントな鏡をゲットした。材質は木で、レモンイエローのペンキが塗ってあり、中心は楕円形をした鏡がはめ込んである。その下に金具のフックが左右についている。私が思うにきっと櫛とブラシを下げるのだろうな、と。そうなると、この鏡の居場所は絶対に玄関辺りがベストであるとの思いに至る。外出時にちょっと鏡をのぞき、身だしなみを整えてみる。用の美が加味された道具ほどイカしているものはない。

 そこに今度は私流インテリアを試みようという訳である。楕円形をした鏡の周りは90センチほどあって、そこにビーズで作った小花で囲んだらどんなに素敵だろう、と想像してみた。野ばら、菫、キンポウゲ、小菊、小手毬……を作って太めの軸ワイヤーに巻き付けていく。よく野原でクローバー摘みをして、輪にして編み、髪飾りを作るのと同じやり方である。

 案の定、私の想像はピタリとはまって、色とりどりの小花たちはお互いに解けあって鏡の周りを囲んでいる。道端の野の花が無理なくビーズで再現されたと思うと嬉しかった。もう40年も昔のことである。その鏡を私は「アンの小径」と呼んでいる。

 さすがに「アンの小径」も経年の疲れが出てきて、色も淋し気でビーズで作られたドライフラワーのよう。一念発起してリメイクすることに決めた。このタイトルと構想は、モンゴメリの『赤毛のアン』からヒントを頂いている。

 

 少女の頃は誰もがはまるアンの物語であるが、年齢を重ねておばあちゃんになってもファンは多い。グリーンゲイブルスの風景、暮らしぶり、料理、お菓子作り、そして季節の飾りつけとインテリアなど、その地に行かなくても私たちの想像力はいやがうえにも高まり、そして深まる。豊かな感性で生きることの意味をリードしてくれたアン・シャーリーという最高のナビゲーターは、どんなに世界中の少女たちを元気づけたことか計り知れない。

 ひと月ほどかけて作り直した新作は、期待以上に私の心を躍らせた。鏡に映っている私は随分年を取ってしまったけれど、何だかとてもほっこりとしている。一人で悦に入っているバカな私だとは思いながら、「それで幸せならいいじゃないの」と開き直ってみる。物を作る楽しみは自分の為にある。思い通りにできず苦労した時も、出来上がりの達成感に酔うことができるのも自分だけに与えられた特権である。

 でもここにきて一つの疑問にぶつかった。40年前に作ったものとウリ二つというのは、それを良しとするのは、如何なものであろうかと。なんの進歩も変化も見い出せない自分は化石同然なのかしら? 

 いやいや、と反論を試みる。「今、心を躍らせている私が居る、そのことだけで充分じゃないの」と心の中でつぶやいている。

 

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