はかどらない夢
夢は面白い。自分を正直に語ってみせるから。
調子のいい日は大がい夢を見ることはない。
ストレスが溜まる日が続いたあとは、必ずと言っていいほどすごくいやぁ~な夢を見る。
寝覚めが悪いという言葉づかいがあるが、正に明け方に見る夢は、起きても気持ちがスカッとしない。
「ああ夢で良かった」という安堵感はあるものの、自分としては全く面白くないのである。
どうしょうもない夢に捕われた自分が忌々しい。
この忌々しい夢のことを私は「はかどらない夢」と名づけて忌み嫌っている。
でも時には面白い夢を見たり、有難い! と拍手が出るくらいのアイディアは夢のお告げである。
しかし周期的にこのはかどらない夢はやってくる。
今朝は正にそういう一日の始まり。夢はこういう具合である。
飛行機の到着が遅れたとか何とかで、どこかわからない狭いロビーは大混雑だ。
友達が呼んでいるのに、すぐそばなのになかなけたどり着けない。ほどけた靴ひもが上手く結べない。
そのうち切符をとりだそうとバックを開けるのだが、見当たらない!もうパニックである。
そうこうしているうちに友人はずっと向こうの彼方へ。これらは全てがぼんやりとして、気持ちとは裏腹にスローモーションな風景なのである。
いつの間にか一人で飛行機に乗っている私。それは一人ぼっちの行き先の分からない心細い旅……。降り立った場所も分からず、茫然と立ちすくむ私。
……とまあこの辺りでおバカな夢は覚めてくれるのだが、このなんとももどかしく、歯がゆい状況と言うのはいつも変わらない。
ちょっと気分転換をしてみましょう。
「はかどらない」はどんな漢字を書くのかしら?「計どらない」ではないわよね。
辞書には、ありました!ありました。何と「捗る」ですって。作業が捗る、勉強が捗る、と適切な用語まで載っている。
捗々しい(はかばかしい)進展、に至ってはすっかり度肝を抜かれてしまった。
突如編集者Tさんのメールの一文がこの字に呼応するように蘇ってきた。
「夢のお告げはありましたか? 文章の進捗も含め、ゆっくりランチでもしましょう」
いつも彼女は心優しくおだやかである。
でもその時私は進捗(しんちょく)という字が読めず、Tさんの誤植だとあっさり決めてしまっていたが、何故か気になる二文字ではあった。
俄然本気になって検索を始めた。
何と進捗という字は今やネット上では当たり前に使われていて、特に若者の間では一番ぴったりとくる用語で、仕事が進む、前へ進め、という時に特に使われるらしい。
捗らないとマイナス思考の私も、捗るに変えれば何と世界は明るくなることか。
喜寿を目前にして、少々恥ずかしくもあるが、新しい知識を得てとても愉快である。
蛇足ながらもう一つ、小さい頃、「今日ははかがいったね」と言っていたあの言葉、てっきり故郷の方言だと思っていたけれど「はかがいく」という言葉も辞書には載っている。
写真 大橋健志