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紺碧の将

誘惑の甘い香り

2020.02.05

 二月は色の無い季節である。春の訪れにはまだ遠いがその凛とした空気感が好きだ。

 

 昨年秋、地面に移し替えた小さなライラックの木や、サンザシの小枝のあちこちがぷっくりと膨らんできている。「元気な赤ちゃんが生まれますよ」と天から告げ知らされているように感じて、「美しく成長してね」と心で祈っている私。こんな何でもない一日がゆったりと流れていく二月、賑やかな季節がやってくる前のちょっとしたインターバル、思いっきり想像の芽を膨らませて過ごしたい。

 

 色の無い季節ではあるが、凛とした空気の中に漂うその香りはこの季節のものである。日本水仙とヒヤシンス、どちらもこころ奪われる甘やかな匂いを漂わせ私を虜にする。とりわけ私はヒヤシンスの魅力にどっぷり浸りこむ。花屋さんの店頭を飾っている水耕栽培のヒヤシンスは、それ用の首がくくれたガラスのポットに、濃い緑が剣のような葉、栄養をたっぷり含んだ球根、長く伸びた白い根っこを惜しげもなく披露して「どうよ」と誘っているのである。紫やピンク、白や赤の花をつけているのはもう成人した淑女、剣のような葉の中心から少し顔をのぞかせているのは、生意気な小娘のようだ。この娘はブルーかな、黄色かな……もう少し成長しないと分らないよ、とじらされる。

 

 ヒヤシンスには豊富な花言葉のほかに様々な物語があって、知れば知るほどチャーミングな花なのである。オペラで「ヒヤシンス姫」というのがあるそうだが観てみたい。ミュシャのポスターも有名だそうだ。プレゼントしてくださるなら、球根もひげもつけてわっさりと一抱えもあるほど頂きたい。甘く濃密な香りに埋もれるのは未知の体験である。

 

 「ちょっと待てよ」ふと考えた。このグラマラスな姿態と甘やかな香りに埋もれるのは女ではなくて男のほうが似合っている。頂いた男子はしっかりと受け止めるべし。

 

 こんな話がある。骨折で入院した男友達を見舞った彼女が、見舞い品として手渡したのがすずらんのブーケだった。彼女はここで一つのミスを犯してしまった。「香りや匂いの強いものは病人には避けるべし」その夜、彼はすずらんの濃密な香りに包まれて一睡もできなかった。やがて二人は結婚したのだが、果たしてすずらんはキューピット役を果たしたことになるのだろうか。

 

 どちらかといえば日本の男性には清潔な甘さが薫る日本水仙のほうが似合っているかもしれない。凛とした清楚な佇まいは、理想の女性を彷彿とさせるから。

 

 香りの無いビーズフラワーは本当につまらないと思う。こればかりは生きている花に脱帽である。水仙のビーズフラワーなんて……とすねてはみたものの作ってみました。いかがでしょう。

 

 

スイセン

画像/大橋健志

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