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紺碧の将
Interview Blog Vol.134

定年を機に起業し、新しい事業に取り組んでいます。

株式会社フルビズ 代表古谷武道さん

2024.06.04

 

青森県八戸市に生まれ、社会人になってから広告代理店や住宅展示場を運営する会社で企画・営業を担当しながら仙台〜宇都宮〜東京などに移り住む。60歳の定年を機に、やりたかったことをするために起業。株式会社フルビズを立ち上げる。これまでの足跡、そして今後、取り組みたいことなどを聞きました。

夢見る青少年時代

古谷さんのご出身は?

1961年、青森県八戸市出身です。

仕事で八戸を訪れたことがありますが、透明なイカソーメンが印象に残っています。内陸に生まれ育ったものですから、イカは白いという先入観がありました。

生き造りの透明なイカのコリコリとした食感もいいのですが、イカは水揚げ後、赤から白く変わっていきます。皮は赤くても身は白い状態のイカは甘みも出ておいしいんです。でも、皮まで白くなってしまうと鮮度が落ちた状態なのでお勧めしません。

ところで古谷さんは還暦を迎えて定年退職し、栃木県宇都宮市で「株式会社フルビズ」という会社を設立されましたね。まずはそこに至るまでの経緯をお聞きしたいと思います。古谷さんは子供の頃、どんな感じの子でしたか。

自分で言うのもなんですが、かなり知的好奇心の強い子供でした。小学生のときは科学クラブに所属していて、夜自宅の庭にシートを敷いて夜空を眺めながら流れ星を数えていたことを覚えています。吹奏楽部にも入っていてチェロをやっていたり……。

夢多き少年だったのですね。その頃、具体的な将来の夢はありましたか。

漠然とですが、将来はパイロットになれたらいいなと思っていました。その頃、『丸』という戦争ものの雑誌を愛読していたり、軍艦や戦闘機のプラモデルに熱中していたのですが、その延長で、大きくなったら飛行機を操縦したいと思ったんです。

子供の頃の夢は、大きくなるにつれ、現実の壁に阻まれて消えていくのが大半ですが、古谷さんの場合はどうでしたか。

そうですね、とりあえず八戸高という地元の進学校に入ったまではよかったのですが、今思うと、大学の選択が最初の誤りでしたね。

と言いますと?

僕はもともと本が好きで歴史が好きで、数学は苦手という、典型的な文系の人間でした。ところがなんとなく将来、生物学者になるのもいいなと思っていたんです。当時、バイオテクノロジーという言葉が出始めた頃だったこともあって、生物学ってかっこいいなって(笑)。そこで進路担当の先生に「理系の大学に進みたい」と言ったら、「ほんとか? だっておまえ、文系と理系の点数が全然違うだろ」と驚かれたんです。そこで思い直して経済学などを選べばよかったのですが、これからは理系の時代だという思い込みがあって、山形大学の農学部林学科に入り、林産製造学科を専攻しました。

そこではどんなことを学んだのですか。

最初の1年間は山形市内に下宿していましたが、2年目、鶴岡のキャンパスに移り、森林やそれにまつわる生産物、キノコなどについて勉強していました。

鶴岡ですか。私の好きなところです。食べ物が美味しいですし、出羽三山など、魅力的なスポットがあります。少し足を伸ばせば鳥海山にも登れますね。

じつはそのとき、初めて太陽が海に沈むのを見たんです。感動しましたね。生まれたのは太平洋の港町でしたから水平線から日が昇るところは見ていましたが、水平線に日が沈むところは見たことがなかったのです。

海に日が沈むのを見て感動するなんて、柔らかい感性を持っていたのですね。

その頃、初めてバイクを買って、行動半径が格段に広がりました。山形市内に交際相手がいたのですが、毎週のように鶴岡と山形を往復したり……。思いっきり「青春」していました(笑)。

転職しながら現在の「自分」に近づく

大学を卒業した後、生物学者になった……わけではないですよね?

ハハハ(笑)。プロのスポーツ選手と同じで、ごくごく一握りの人しか研究畑には進めないです。研究室の推薦で大手の建築資材会社に就職しました。生物学をやったけど、結局建築資材の会社かあ、しかも営業かあ、世の中そんなもんだよな、と醒めた感じで納得したり……。

その会社での仕事はいかがでしたか。

その会社は建築資材のメーカーで、問屋回りのルートセールスが基本でした。2年半、まったくおもしろいこともなく、淡々と過ぎていきました。ところがある日、友人と飲んでいて仕事の話題になり、彼が「古谷はおもしろいことが好きじゃん。だったら広告会社なんか向いているんじゃないか」と言ったんです。広告会社ってなに? と訊くと、「テレビとか新聞の広告をつくっている会社だよ」と答えました。それまでテレビ広告や新聞・雑誌広告などあらゆる広告はそれを出している会社が自前でつくっているとばかり思っていましたから、「へぇ〜、そうなんだ」と妙に感動し、「だったら、一度話を聞いてみようかな」と思い、仙台に拠点のある広告代理店の面接を受けたんです。すると、「八戸出身か。ちょうどいいや、土地勘もあるしな。はい採用!」と、とんとん拍子に決まってしまいました。

広告代理店ということは営業職ですね。

そうです。ただ、制作のイロハがわかっていないと営業できないから、まずはデザイナーの下について制作の見習いをしろと言われ、はじめの1年間は制作をやらされました。

アナログ時代の広告制作ですね。大変だったでしょう?

デザインのデの字もわからなかったですからね。はじめはロットリングという製図用の筆記具で寸法通りに線を引く練習をしたり、文字を写植で打ってもらい、ペーパーセメントを使ってそれを版下に貼り込んだり、間違った部分はカッターで切り取って正しい文字を貼り直したり……。広告をつくるのってこんなに大変なのかと驚きました。

私もやりました(笑)。パソコンでつくるのが当たり前になった世代の人がその当時の制作方法でつくれと言われたら卒倒するでしょうね(笑)。その後、営業部へ配属されたのですか。

仙台支店の営業チームに配属され、いろいろな企画をセールスしたり、自社媒体の埋めるために走り回ってました。

どんな業界でも営業職は厳しいものがありますが、その会社での仕事はいかがでしたか。

それはもう(笑)。夜討ち朝駆けは当たり前で、上司からは「契約を取るまで帰ってくるな!」と言われていました。

おもしろい仕事をするために転職したはずなのに、ちょっと勝手がちがっていましたね。

あるスーパーを担当していたのですが、それがしんどかったですね。生鮮食品の仕入れ値は刻一刻と変わりますから、ギリギリになるまで価格が決まらないんですよ。夜中、ようやく価格をもらって、それから制作が朝までに版下を仕上げ、朝一番、クライアントへ出向いて校正してもらい、午前中に校了させないと間に合わない。毎週薄氷を踏む思いでした。そんなある時、まとめて人が辞めてしまったんです。そのとき、自分も潮時かなあと。じつは、それまでにいくつか企画書をつくって会社に売り込むことをしていたのですが、そういう仕事をしたいと思ったのです。

広告業を川に喩えると、企画は川上ですから、醍醐味がありますよね。

そうなんです。そんな折、新聞の求人広告で、ある広告会社が企画マンを募集しているというのを見たんです。さっそく面接を受けました。その会社は本社が東京にあり、さまざまなハウスメーカーのモデルハウスを集めた住宅展示場を各地で展開していました。

広告会社が住宅展示場を企画・運営しているというのは意外だったでしょうね。

そうですね。面接のとき、それまでにつくった企画書をいくつか持参したのですが、採用担当者が「うちの会社は住宅展示場がメインだけど一般広告もこれからどんどんやっていくつもりだから、やってみればいいよ」と言われ、採用されることになりました。

このときもとんとん拍子に転職が決まったのですね。

その会社には33年間在籍していました。住宅展示場を新しくつくるには広い土地が必要ですが、まずはじめに住宅展示場に適した土地を探して地主と交渉して土地を確保し、その後、その市場にあった展示場プランを考え、さまざまなハウスメーカーに出展の交渉をし、無事オープンさせたあとは見学者を集客するためにイベントや広告を展開します。最初の赴任地は盛岡で、その後、宇都宮、東京と転勤になり、再び宇都宮に戻り、終の棲家と決めました。その間、いくつもの住宅展示場の立ち上げを手がけました。そうこうするうち60歳の定年を迎えました。希望すれば嘱託として5年間延長できるのですが、自分のなかで温めていたものを実現させるため、起業することにしたのです。2021年11月のことです。

ユーザーとハウスメーカー双方にとってメリットのある仕組みをつくりたい

それが株式会社フルビズですね。「フル」は古谷さんの「古」からだと思いますが、「ビズ」はどのような意味があるのですか。

ビズはビジネスの「ビズ」ですね。他にも古びずに常に新しいものに挑戦する、とか分野にとらわれずフルジャンルでビジネスを行うとか、いろんな意味をもたせました(笑)。

温めていたものとはどういうものだったのですか。

住宅展示場っていまだにアナログなんですよ。家を建てたいと思っている人がモデルハウスを訪れると、必ず入口で住所・氏名を書いてアンケートに答えなければいけません。ハウスメーカーはその情報をもとに営業をかけるのですが、ユーザーのほとんどは「新しい住宅を見たいけど、その後の営業がしつこくて……」と思って躊躇してしまうケースが少なくありません。これからの住まいづくりは新築だけではなく、中古住宅を購入してのリフォームやリノベーションなども考えられます。あるいは現在の住まいを売って住み替えるとか、今まで以上にいろいろな考え方が出てくると思います。そんな時代だからもっともっと気軽にモデルハウスを見学して、「こんな家づくりがしてみたいな」とか「こんな暮らしをしたいな」という夢を膨らませたり、気軽に住宅会社の人に相談したりして欲しいと思ったんです。そこで、デジタルを活用してそういう抵抗感をなくし、一方ハウスメーカーにとっても幅広いユーザーと触れ合う機会ができ、それが将来的に顧客につながるというシステムを開発しました。それが「住まポ」です。

長年携わってきたからこその着眼点がいいですね。ネーミングもいいです。「住まポ」を簡単に説明してください。

まずモデルハウスを見学したい人はスマホで入口にあるQRコードを読み取ります。この段階ではニックネームでかまいません。その要領で、見学したい他のモデルハウスをどんどん見学してもらいます。最初の段階では住宅会社はニックネームとどんな時期にどんな住まいづくりを考えているかという情報だけですが、住まポを通して資料請求に応えたり、ユーザーにとってお得な情報を配信したりする事で幅広い層のユーザーと接触機会を増やす事が可能となります。一方でユーザーにとっては見学のハードルがグーンと下がり、今までモデルハウスにはいりにくくて出来なかった新築以外の相談や間取りや住宅設備を見てリフォームの参考にしたりできます。まずは気軽に見てもらうことを優先するということですね。

いろいろなモデルハウスを見学すれば、おのずと購買欲が高まるでしょうね。

そうです。見学したい人はもともと家に関心がある人ですから、モデルハウスを見て気に入れば、間取りやプランなど、より詳しいことを知りたくなり、ハウスメーカーに資料を請求するようになります。また新築じゃなくリフォームだからとか、セールスされるから行きにくいと思っていた人たちが気軽に家づくりの参考に訪れることで幅広い層のユーザーニーズを住宅会社はつかむことができます。その後の商品開発や分譲地開発、商品の訴求方法に活かすことができます。

たしかに。次につながる情報をたくさん得られますね。

それまで経験に頼っていた部分を、デジタルでより明白にすることによって効率的な営業ができるはずです。もはや「夜討ち朝駆け」の時代ではありません。双方にストレスのない方法を模索していくことが求められていると思います。

こういう商品は、他に事例があるのですか。

いいえ、弊社が初めての試みです。

全国で初めてですか。それだけですごいですね。御社のセールス・ターゲットはハウスメーカーや住宅展示場だと思いますが、反響はいかがですか。

このシステムのメリットをきちんと認識してもらうことの難しさを痛感しています。ただ、いくつかの住宅展示場で導入していただき、少しずつ結果が出てきました。いい結果が出れば、一気に状況は変わっていくと思っています。

成果が上がることを期待しています。

これからは空き家が増えるなど、住まいに関する新たなテーマがありますが、そういう問題を解決するソリューションにも取り組みたいと思っています。

いいですね。たいへん失礼ながら、古谷さんはこうして取材している間も「百万ドル(?)の笑顔」を絶やしませんね(笑)。いろいろ大変なこともあろうかと思いますが、基本的に楽天的な性格とお見受けしました。

自分で言うのもなんですが、楽しいことを考える時間が多いですね。もともと物事を悲観的に見るより、楽観的に見る性分だと思います。

趣味はありますか。

たくさんあります。歴史や科学はいまでも大好きですし、若い頃からずっとクルマが好きです。

ちなみにいまはどんなクルマに乗っているのですか。

シトロエンC5です。ハイドラクティブサスペンションが入っている最終型なので乗ってみたかったんです。

あえてフランス車を選ぶところが洒落ていますね。

独特なリアウィンドウの形や船の舵のように真ん中が固定されてるハンドルとかちょっと変わっているのがいいんです。それから、趣味というわけではありませんが、2022年、防災士の資格をとりました。東日本大震災のとき、東北出身者として無力だったことに悔いが残っていて、少しでも地域防災に貢献したいと考えていました。いまは地域の消防団に所属しています。

 

 

 

 

 

 

会社勤めしていた人が定年を機に起業して新しい事業に挑む。うまくいけば、これからのロールモデルのひとつになりますね。ぜひとも頑張ってください。

(取材・文/髙久多樂)

(写真上から/・2匹の愛猫 ・古谷さん自作のペーパークラフト ・愛車のシトロエンC5 ・消防団の操法大会風景)

 

株式会社フルビズの公式ページ

https://fullbiz.work/

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