人の数だけ物語がある。
HOME > Chinoma > インタビューブログ【人の数だけ物語がある。】 > その時できる最高の物を造るのが職人なんです

ADVERTISING

私たちについて
紺碧の将
Interview Blog vol.21

その時できる最高の物を造るのが職人なんです

総合建築設計施工 大工の田中田中進一さん

2017.10.02

田中さん

 

 大工歴34年、請け負う仕事のほとんどを一人でこなす田中進一さん。確かな技術とお客様の理想にそったアイデアの提案で仕事の依頼は絶えることなく、全国でその腕をふるっています。

 これまでの道のりや、仕事に対する思い、職人としてどうあるべきかを語ってもらいました。

職人としての自分と経営者としての自分

大工として現場で働きはじめたのはいつ頃からでしたか。

田中さん

 小さいころから物を作ることが大好きで、叔父が大工をやっていた影響もあり、中学校を卒業してすぐ、弟子入りした親方の工務店で働きました。

 その後、バブルがはじけて景気が悪くなり、働き始めて10年目の時に親方の工務店が解散しました。それで独立することになったのです。

景気が悪くなったときに独立というのは大変ではありませんでしたか。

 親方の工務店で10年間働いた実績が信用になり、当時のお客様から引き続き仕事をいただけたので、独立後も仕事に困ることはありませんでした。

 ただ、一人でやっていくつもりが、仕事がない職人たちから雇って欲しいと言われ、力になりたい気持ちもありましたから、何人か雇ったのですが……。

 規模の大きい現場をこなしながら4年たった頃、次第に「何か違う」と感じるようになりました。

人を雇うということの難しさを感じたのでしょうか。

 景気がよければ、数多く現場をこなせますが、そういう時代ではありません。人を雇用して給料を払うことが難しくなりました。しかし、そんな状況でも雇っている職人の技術に対して正統な報酬は払いたいと思っていましたし、実際に払っていました。

 私は職人ですが人を雇う以上、経営者でもあります。当然、経営者は会社のために利益を求めることが必要です。でも、それに徹することができなかった。

 職人としての理想と現実がどんどん離れていくのを感じました。自由の幅が狭くなっていったのです。経営者には向いてないと感じましたね。

 雇っていた職人を他の工務店に紹介してから解散しました。それからは個人として仕事をしています。

これ以上にない“学び”の場

田中さんは建築の技術だけではなく、デザイン面でもさまざまな提案をお客様にしています。中学校を卒業してすぐに弟子入りしたとお聞きしましたが、そちらの勉強はいつ、どのようにしていたのでしょうか?

 例えば店舗改装の仕事は、デザイナー・設計士・プランナーなど、さまざまな役職の人が関わっています。そのデザイン、設計やプランニングを見聞きして工事をするので、デザイナーの遊び心とか、設計士やプランナーのノウハウをどんどん吸収できるのです。

 そういう経験を積むうちに、自分でも提案できることが増えていきました。

特別どこかで学んだわけではなく、最初はまったくできない分野だった。しかし現場で仕事を見て聞いて覚えて、ついには自分でも提案ができるようになったということですか。

 普通、大工の仕事は指示された通りにこなせばいいので、デザインの良い悪いを考えないと思うんです。でも私はどうしても気になってしまう。「この考え方は凄い」「これはいいデザイン」と思えるような現場は、学びの場としてこれ以上にないですから。

 そうして過去の現場で学んだことを自分風にアレンジをして、新しい現場でお客様と打ち合せをしながら、提案します。

 さすがに図面だけは設計士を通さないといけないので、そこはお願いをしていますが、その図面をもとに「遊び」を入れるように肉付けをしています。

職人としてのこだわり

こだわっていることはありますか?

 不要なコストをかけないこと、過剰な利益を求めないこと。この二つですね。特に報酬は必要最低限をいただくようにしています。生活ができる程度のお金だけ稼げればいいという考え方なので。お客様に見積りを出すと「間違えてませんか?」と言われることが多いですよ(笑)。

 例えば店舗改装の相談があったとき、よそでは4,000万円の見積だったのを200万円で請け負ったことがありました。でもこれは仕事を取るために特別安くしているわけではなく、その範囲で無理なくできるからこの値段なんです。

何か特別なやり方をしているのですか?

田中さん

 築150年にもなる家(※写真参照)のリフォーム依頼があったとき、最初に見たのがその家の骨組みと使われている資材でした。作りもしっかりしていますし、木材も素晴らしいものを使っているんです。これを全部壊してゴミにしてはもったいないですよね。

 活かせる部分はトコトン活かしてお客様の理想に合わせたデザインに組み込みながら、コストをかけずに造り上げていくのが基本です。

 安くて質の良いものができればそれが一番じゃないですか。そうしてでき上がったものはお客様も嬉しいと思いますし、何より私が嬉しいんです。関わっている全員が嬉しくならないような仕事は仕事とは言えないですよ。

過剰な利益を嫌うのは、経営者ではなく、一人の職人となったことで得た自由を守りたい気持ちからでしょうか。

 お金って仕事の後からついてくるもので、逆にお金を追うようになるとよくないと思うんです。稼ごうと思えばいくらでも稼げるだけの技術は持っているつもりですし、それだけの仕事をしている自負はあります。でも必要以上に儲けると仕事の質は絶対に落ちてしまう気がするんです。

慢心をしないように気をつけていると感じられます。

 お金に限らず、人間って“持っていない”と知恵でカバーするんですよ。逆に必要以上に“持っている”と便利さにかまけて、考えることをやめてしまうんです。

 再利用できる資材でも、めんどくさいから捨てちゃえとか、新しいものを買えばいいとか、そうなるといい仕事は絶対にできません。

 利益を追求するあまり、どこか材料をごまかそうとか、手を抜いてやろうと考えて、仕事を託してくれた人を裏切るようになったら、職人としておしまいですよ。

 自分の持てるすべての知恵と技術を使って、その時できる最高のものを造る努力をするのが職人なんです。

 

田中さん

【記事一覧に戻る】

ADVERTISING

メンターとしての中国古典(電子書籍)

Recommend Contents

このページのトップへ