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紺碧の将
Interview Blog Vol.41

死ぬまでに自分が欲しいモノを作ろうと思った。

株式会社エアロコンセプト代表、精密板金職人菅野敬一さん

2018.04.11

小さな町工場で作られた世界的ブランド「エアロコンセプト」の生みの親である菅野敬一さん。精密板金職人として長年培ってきた技術で、自分だけのカバンを作ったのが始まりでした。直接見て、気に入ってくれた人だけに販売するという独特の経営スタイルでありながら、彼の作品を求める人は後をたちません。

どん底から生まれたエアロコンセプト

エアロコンセプトが生まれた経緯を教えてください。

 じいさんの代から継がれてきた会社が倒産して得意先に挨拶回りをしたとき、そのうちの数社から「仕事ならいくらでも出すから仕事を続けてくれ」と言われたんです。ありがたくてね。巨額の借金を抱えて毎日死ぬことばかり考えていたときだったから、人とのつながりや温かさが身にしみました。支えてくれた家族や従業員たち、手を差し伸べてくれた人たちのためにも、もう一度ゼロからやり直そうと思いました。だけど、これまでと同じことをしていても同じことを繰り返すだけだと思ってね。それまでは航空機の部品を製造していたんだけど、どんなに精魂込めて作っても感謝されるどころか「もっと安く作ってくれ」と言われるのがオチ。だったら死ぬまでに自分が欲しいと思うモノを作ろうと思った。そこで生まれたのがエアロコンセプトです。

ジュラルミンや合金に穴が空いた斬新なデザインは、一目見ただけで「エアロコンセプト」だとわかります。金属でできているにもかかわらず、軽いですよね。

 もとは航空機の部品ですからね。航空機は軽量化のためにさまざまな工夫がされているんですよ。ジュラルミンに穴を開けるというのもそのひとつです。薄くて軽いジュラルミンに穴を開けることによって、さらに軽くなります。その技術を応用して作りました。

デザインの発想はどのようにして生まれるのですか。

 どうしてこういうものを作ることができたのかと、よく聞かれます。そのたびに私はこう答えるんですよ。「わかりません」と。子供のころから絵を描くのが好きで、今でも一人になると、するともなしに落書きをしています。頭のなかにあるイメージを紙に描いていくんです。何枚も何枚も。もう習い性ですね。それが作品のアイデアになっていく。だから、だれかの意見や求めるものに合わせて作ることができない。自分のなかで自然発生的に生まれるものだから、こうすればもっと売れるなどとマーケティングを考えて作ることはできないんです。

なにげない風景から受け取るインスピレーション

インスピレーションになる源泉はなんでしょう。

 いろいろあるよ。日常にあるすべてがインスピレーションの元になるね。たとえば、車のドアの開け閉めだとか、お金を支払うときの動作だとか、そのときどきでアイデアが浮かび上がってきます。こういう仕草ができるとかっこいいなとかね。カバンを開閉するときの音は、ライカのシャッター音を再現しています。好きなんですよ、あの音が。

 私は渓流釣りやキノコ採り、山菜採りが趣味でね。なかでも夕焼けを見るのが好きです。夕方4時半ごろから5時15分の間に首都高に乗ると、富士山と丹沢の山の端が都会の高層ビルと重なって、美しいシルエットになるんです。冬場の夕焼けは最高ですよ。澄み切った空気に赤やオレンジが映えて、紫外線がカットされた群青色の空とのコントラストが最高に美しい。季節によって夕焼けの色も違いますからね。そういう日常のなにげない風景が私にとってのインスピレーションです。自分の目で見たことや経験したことからしか発想は生まれないですから。

エアロコンセプトにカスタムメードはあるのですか。

 あります。ただ、なんでもかんでもお客さんの言うことを聞くわけじゃない。作り手である自分の思いと相手の思いが重なった場合だけです。

 私は自分の価値観を押しつけようと思ってるんじゃないですよ。あらゆるニーズに応えていたら、インスピレーションの素になっている「こんな風に表現したい」という思いが消えてなくなりますからね。

世界が認める日本の職人技

モノづくり大国ニッポンを取り戻すべく、今、町工場が奮闘しているようです。テレビの影響もあってか、新しいモノが町工場から生まれていますね。

 職人の技術が見直されてきたのは嬉しいことです。ただ、それもごく一部のところだけだと思いますよ。いまだ、閉鎖に追い込まれる町工場は後を絶たちません。効率化と合理化を最優先した機械によるオートメーション化の歪みは大きいですよ。しかも、これからはAIの時代ですからね。職人の手業というものが、今まで以上に淘汰されるんじゃないでしょうか。

 どんなにいい技術をもっていても、下請けや孫請けのままじゃ、これからの時代は生きていけないですよ。その技術を生かして販路を広げるには、とにかく捨て身になって、自分がほんとうに好きなやり方でやっていくしかないと思います。そのときは、商売や世の中の常識は考慮せず、徹頭徹尾自分が欲しいモノを作る。そうやって生まれたモノには、少なくとも自分という大ファンがつきます。ひとり、大ファンがいたら、そこから広がる可能性はあります。エアロコンセプトの最も熱心なファンは、私自身なんですよ。

トム・クルーズ主演最新作『ザ・マミー』でも菅野さんのカバンが使われていますね。ミラノ・コレクションでも長身のモデルがエアロコンセプトのカバンを持って颯爽と歩いていました。ロバート・デ・ニーロやジョージ・クルーニー、ユマ・サーマン、F1ドライバーのジャン・アレジなど、世界のVIPたちを虜にしたというのは素晴らしいです。日本でもカルチュア・コンビニエンス・クラブ代表の増田宗昭氏は、古くからのファンだそうですね。

 はい。都内のセレクトショップに置いてあったものを気に入ってくれて、たくさん購入してくださいました。それ以降、増田さんとは懇意にさせていただいています。代官山T-SITEをはじめ、GINZA SIXなどの蔦谷書店にエアロコンセプトのコーナーまで設けてくださっています。ありがたいですよね。

GINZA SIXにある蔦屋書店のエアロコンセプトコーナーは、現代美術館の一角かと見まごうほど美しいです。ところで、弊社の髙久が書いた『SHOKUNIN』を読むと、菅野さんの人生哲学が満載ですね。

 そうですね。『SHOKUNIN』を一読すれば、私のことがだいたいわかるはずです。こういう生き方があってもいいんだと思えるんじゃないでしょうか。あれは私の感性と髙久さんの感性がピンポイントでマッチした結果、生まれた本だと思っています。

「合理性や効率や便利さよりも、大切なことがある」「お客様第一主義って、お金のためなら何でもやるという意味じゃないかな」「人に支配されない生き方をしたい」「自分の仕事の流儀は自分で決める」など、この本にはいつの時代にも通用する普遍的な言葉がぎっしり詰まっていますね。

 髙久さんもそう思っているから、私のそういう部分に気づいてくれたんじゃかないかな。結局、人って、感性と感性が触れ合うかどうかだと思う。同じ空間にいても、感性が交わらない人とはただすれ違うだけ。一生交わることはない。

この本は写真もいいですね。森日出夫さん、いつも『Japanist』でもお世話になっています。

 彼も素晴らしい感性を持っているよね。撮影の依頼があったから、リクエストに応じて撮るという仕事の仕方じゃないもの、彼は。どうやったらエアロコンセプトの作品が魅力的になるかを真剣に考え、しかも楽しみながら撮ってくれる。そういう仕事が人を幸せにするんだよね。

これから目指したいことはなんですか。

 うーん、それに対する答えは難しいですね。と言いますのは、それに対して答えること自体、作為的になってしまいます。僕はこれまでずっと、「これをやりたい」「こんなモノをつくってみたい」と直感で得たことだけをやって生きてきた人間です。ある意味、それがエアロコンセプトの重要なファクターでもあると思っています。それに、僕は作為的に考えることが得意じゃない。もちろん、これから何をしたいと考えないわけではないけど、あくまでも自然体で、自分の内面から湧き起こってくる直感を大事にしていきたいと思っています。

たしかにそうですね。「これから何をしたいですか」と菅野さんにお訊きすること自体、失礼だったと思います。ずっと自然体を貫いた菅野さんが、これからどうなっていくのか、興味深いです。これからも一流の仕事を期待しています。

 

エアロコンセプト公式サイト

http://www.aeroconcept.co.jp/

https://www.aeroconcept-international.com/

 

 

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