あなたは何のために〇〇しているのですか?
「ちからのある言葉」というより、問いかけである。〇〇には、今やっていることを入れてほしい。
出どころは、読売新聞の「時代の証言者」というインタビュー記事。語り手は、バレリーナの森下洋子さん。
あるときのリハーサル終盤で、のちに伴侶となるパートナーの清水哲太郎さんから言われた言葉だそうだ。本文を少し抜粋させてもらう。
清水さんは、ふとつぶやいた。
「あなたは何のために踊っているのですか」
森下さんはハッとした。
「好きだから」と答えようとしたのだが、「ちょっと違う」と思いとどまった。
わたしは、いったい何のために踊っているのだろう……。
3歳から始めたクラシックバレエは、出会った瞬間から虜になり、周りが心配するほど熱中した。
商店街のショーウィンドーに姿が映るたびに踊り出し、「恥ずかしいからやめて」と親に止められることもあった。
器用だったわけではない。
むしろ周りの誰よりも不器用で、先生にも「どうしてできないのか」と、よく怒られもした。
かといって、悔やんだり落ち込んだりもしない。
家に帰って畳の部屋で何回も踊っていると出来るようになるのだから。
「やっていけば必ずできる」
その確信が、しだいに体に染み付いていった。
以来、ずっとそうやって毎日、繰り返し繰り返し練習を重ね、70年間、踊り続けてきたのだ。
「振り返れば、私は親や周りの人が喜んでくれることがとてもうれしかった。問いを突きつけられ、多くの人に喜んでいただくことが、私の使命なのかもしれないと感じ、ズンときました」
森下さんの中で、この言葉は大きなターニングポイントとなり、折に触れ思い出す生涯忘れられない言葉となったそうだ。
何かをしようとするとき、「好き」という気持ちが一番の原動力になるのは確かだ。
だとしたら、その「好き」はどこからきているのか。
元シンクロのオリッピック選手で、現在はメンタルトレーナーでもある田中ウルヴェ京さんも、あるサイトで述べていた。
「スポーツ選手の〝やる気〟の原動力も〝好き〟であること」と。
その「好き」は、その競技自体が好きということの他に、「自己向上感が好き」「挑戦が好き」という感覚的なものも含むという。
だとすれば、「あの人が喜ぶ姿を見るのが好き」とか、「誰かを楽しませるのが好き」など、広義的に捉えて「好き」を考えてみるのもいい。
その手段として、何を選ぶのかは、本人の自由。
好きなことがわからないのは、それを特定の物や事、行為だけで捉えているからかもしれない。
自分自身へ問いかけてみてほしい。
「あなたは何のために〇〇しているのですか?」
もうひとつ、
「なにをした時に、自分も周りもハッピーな気分になりましたか?」
ぼんやりとでも、自分が本当に求めていることが見えてくるのではないだろうか。
今回は「もてなす」を紹介。 日本の代名詞とも言われる「おもてなし」。相手を思いやり、慈しみの心でお迎えする。客人へのあたたかい心配りが「おもてなし」の基本ですが、一歩間違えると、心配りが過剰になったり、客人の言いなりになってしまうこともあります。続きは……。
(210721 第733回)