ゆるぎない習慣は、精神力の涵養につながり、感情の波に流されるのを防ぐ
161人の偉人たちの習慣をまとめた『天才たちの日課』の著者、メイソン・カリーが「はじめに」で語っていた言葉だ。日々の過ごし方は著者本人が悩んでいたテーマ。最高の仕事をするために、創造性を高め生産性をあげるためには、毎日どう時間をやりくりすればいいのかを考えた時、思いついて調べたのが偉人たちの日々のスケジュールだった。偉人に限らず、これは万人に共通するテーマだろう。
スポーツ選手のメンタリティの高さには、いつも驚かされる。オリンピック選手たちの活躍ぶりを見ても、彼らのメンタリティの高さを感じる。日々のトレーニングの賜物にちがいない。
競泳で女子初の2冠を達成した大橋悠依選手の泳ぎを見て、バイオリニストの千住真理子さんは、某新聞にこう感想を述べていた。
「無の状態で泳ぐのが、一番強いのかな、と思いました」
周りの選手は必死に泳いでいる。
けれど、大橋選手はのびのび泳いでいるように見えた。
それは「心が無の状態」だったからではないか、と千住さんは強く思ったそうだ。
ここ一番という時に、まわりを意識せず、無の状態になることができれば、持っている力を存分に発揮できる。
「無の状態」とは、集中力が最高潮に達し、しかもリラックスした「フロー」の状態。
完全に浸りきった状態だ。
そこに至るには、日々のトレーニングは欠かせない。
なぜなら、心身のバランスが崩れると集中力も崩れるから。
それを証明するように、偉人たちの多くは日常を習慣化して心身のバランスを保っている。もちろん習慣も十人十色で、これがいいという完全なものはない。みんな自分にあった生活スタイルで日常を習慣化している。
「個人の毎日の習慣は、ひとつの選択、または一連の選択の結果でもある。うまくやれば、さまざまな限られた資源――たとえば時間、意思、自制心、前向きな姿勢など――を有効に利用するための巧妙な仕組みになる」
ゆえに、ゆるぎない習慣は、精神力の涵養につながり、感情の波に流されるのを防ぐのだと、メイソン・カリーは確信したようだ。
精神力が高まれば、感情も安定する。
感情が安定すれば、集中力も高まる。
集中力が高まれば、「無」や「フロー」の状態にもなれる。
「大橋選手も練習ではどう腕を動かすか、体はどう作るか、専門的な訓練や工夫を重ねたと思います。けれど、勝負の瞬間、彼女はその全てを考えることはなく、本当に無になって、ただ何者かに導かれるように、自由にのびのびと泳いだ。彼女の心の中は無だったんじゃないか」
バイオリニストとして日々練習に打ち込む千住さんだからこそわかる、「ここ一番」の感覚だと思う。
今回は「もてなす」を紹介。 日本の代名詞とも言われる「おもてなし」。相手を思いやり、慈しみの心でお迎えする。客人へのあたたかい心配りが「おもてなし」の基本ですが、一歩間違えると、心配りが過剰になったり、客人の言いなりになってしまうこともあります。続きは……。
(210729 第735回)