無理はできる間にしかできない
全米を沸騰させたアメリカ大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手の熱いシーズンが終わった。最終戦で46号先頭打者本塁打を放ち勝利に貢献。誰もが認める彼の大活躍の裏には、想像を超える努力がある。そのことを誰よりも知っているのは、シアトル・マリナーズで数々の記録を打ち立てたイチロー氏だろう。その彼が大谷選手に寄せたコメントの一部がこれだ。
食べ物に旬があるように、人にも旬というものはある。
人生を四季になぞらえれば、種まきの冬、開花の春、成長の夏、実りの秋と、人それぞれに春夏秋冬の時節がある。
個人差はあるものの、だいたいが「論語」にある孔子の言葉どおりにちがいない。
―― 吾十有五にして学に志す。
三十にして立つ。
四十にして惑はず。
五十にして天命を知る。
六十にして耳順(したが)ふ。
七十にして心の欲する所に従へども、矩(のり)を踰(こ)えず。
これに当てはめれば、大谷選手は「三十にして立つ」前だろうか。
現状に甘んじることなく、さらなる進歩を目指す後輩に、イチロー氏が「論語」にも通じる花向けの言葉を贈った。
「アスリートとしての時間は限られる。考え方はさまざまだろうが、無理はできる間にしかできない。
2021年のシーズンを機に、できる限り無理をしながら、翔平にしか描けない時代を築いていってほしい」
大谷選手はメジャー1年目の開幕直前、誰にも相談できない悩みをイチロー氏にだけ打ち明けたという。
開幕前のオープン戦で、日本では通用した「二刀流」がメージャーでは通用しないことを思い知り、大谷選手は自信を無くしていた。
そんな彼に、イチロー氏は言った。
「自分の才能や、やってきたこと、持っているポテンシャル、そういうものをもっと信じた方がいいよ」
この言葉をきっかけに、大谷選手の快進撃が始まったのだ。
大谷選手は「自分の才能とは何か」を考え続けた。
出てきた答えは、「努力して上手くなること」
自分は最初から野球がうまかったわけじゃない。
自分より野球のうまい選手はたくさん見てきた。
それなら、もっと努力して上手くなればいい。
もっと努力して勝てばいい。
その努力の結果の「二刀流」なのだ。
海を渡ったときから、無理をするのは承知の上。
野球の天才ではないから、無理をしても努力をする。
これが大谷選手の時間の使い方。
有限な時間をどう使うのかは人それぞれ。
けれど、無理ができる時間は限られている。
今回は「千秋楽」を紹介。「この相撲一番にて、千秋楽〜」という口上、耳にしたことはありませんか。相撲でおなじみ、場所最終日に行司が呼び上げる結びの触れです。 続きは……。
(211005 第753回)