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紺碧の将

現実の人生から受け取ることのできる価値とは異なった価値を受け取ることです

瀬木比呂志

 法学者で裁判官の瀬木比呂志氏の言葉だ。著書『リベラルアーツの学び方』でみつけた。裁判官の真実を暴いた著書も多く出している彼は、リベラルアーツを学んでいるだけあって、ものの見方が多面的でおもしろい。

 

 人ひとりの人生など、たかが知れている。

 人生経験がどれほど豊富であろうと、その経験は主観だらけで、当然だが自分個人の価値観が前提に立っている。

 だから、自分の庭から出ることはない。

 その庭から出るには、自分とは異なった価値観や見方を知る必要がある。

 

 手っ取り早いのは、本を読む、音楽を聴く、映画を観る、美術館へ行くなど、他のだれかが創造した何かに触れることだろうか。

 それは、まぎれもなく自分以外の価値観からうまれたものだから。

 

 瀬木氏のいう「現実の人生から受け取ることのできる価値とは異なった価値を受け取ること」というのは、そうことだろう。

 

 書物や芸術文化などのリベラルアーツから学び得たものは、ものの見方、考え方をひろげ、心の世界を充実させる。

 現実はそれほどでなくても、心の世界が充実していれば、人生は楽しい。

 生きる力もわいてくるにちがいない。

 瀬木氏もリベラルアーツから得たものの第一は「生きる力」だったらしい。

 

「困難な状況に出会っても、へこたれず、節を曲げず、システムに事大主義的に順応することなく、自分の生き方や考え方を貫いてゆく力。リベラルアーツから学んだそのような力がなければ、とっくに、型にはまった官僚裁判官として化石化していたことでしょう」

 

 異なった価値を受け取ることで、現実の人生の価値もわかるし、他を知ることで自分を知る。

 つまり、リベラルアーツは生き方を楽にさせるということだろう。

 

神谷真理子(本コラム執筆者)公式サイト「ma」

 

●「美しい日本のことば」連載中

 今回は「空蝉」を紹介。

「空蝉(うつせみ)」といえば、『源氏物語』を思い浮かべる人も多いでしょう。衣だけを残して姿を消した空蝉の女房に、光源氏が送った歌はみごとでした。続きは……。

(220802 第805回)

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