経験の伴わない知識だけが蓄積していくのは怖い
この人の言葉は信用できる。元メジャーリーガー、世界のイチローである。現在はシアトル・マリナーズで、会長付特別補佐兼インストラクターを務めるイチローさん。雑誌『Number1072』のスペシャルインタビュー記事で、富士山を背にしたイチローさんの姿は神々しかった。こんなにも富士山が似合う人はいない。
失敗は成功のもととは耳慣れた言葉だが、だからといって、あえて失敗したいとは思わない。
できることなら、「失敗」に出くわさない道を選びたい。
初めてのことなら尚更、「どうか上手くいきまうように」と、心から願う。
でも、誰もが知っている。
人生、そう上手くいきっこない、と。
どこかで必ず失敗するから、どんなに頑丈な石橋でも慎重にコツコツと叩きながら、ソロソロと忍足で歩いてしまう。
怖がりな人なら、鉄筋の橋でも渡ろうとしないだろう。
そんな人に、橋の向こう側からイチローさんは呼びかける。
とりわけ若者たちへ。
「全力でぶつかって、未来の自分の礎になるものを作ってほしい。それができれば、将来何になろうとも、果敢に挑戦する勇気を持てます」
もちろん失敗することもある。
しかしそれは、目標を達成するためには必要で、それが自分を高めてくれる方法でもある、とイチローさん。
では、高まった自分は、なにを手にしているのか。
「経験」と「自分の言葉」である。
「挫折のない人の話なんて全然おもしろくないし、魅力的でもない。それこそが財産となるものです。だから、いろいろなことに挑戦し、自分の言葉を持てる大人になってほしい」
若者に向けたエールだが、長く大人をやっている者の琴線もびんびん震える。
はたして、どれだけの経験と自分の言葉を持っているだろうか。
ほんとうに、自分の言葉で語っているだろうか。
と思っていたところに、
「経験の伴わない知識だけが蓄積していくのは怖いものです」
と、釘を刺されてしまった。
ああ、耳が痛い……。
今回は「万緑」を紹介。
目に青葉山ほととぎす初鰹……と、思わず口づさんでしまう初夏。字面からも、なんとなく想像がつくでしょう。見わたすかぎり青々と緑が生い茂った景色が「万緑」です。続きは……。
(230518 第841回)